阪神・藤川球児監督(46)が球団史上初となるリーグ連覇に導き、虎党が歓喜に沸いている。想像を絶するほどの重圧から解放された指揮官は「苦しかった」と本音を吐露したが、そのポーカーフェースは先頭でゴールテープを切るまで〝嫌われ者の仮面〟で完全武装されていた。
自身の弱みや真情を公の場でさらけ出すことを忌避してきた男は、連覇を決めた3日に待望の美酒を浴び「地獄の日々でした」と誤算と苦労続きだったシーズンを表現した。
「監督という職を受けたその瞬間から、私(わたくし)というものはない」。指揮官就任当初から何度も繰り返してきた言葉の重みを、改めて思い知らされる2年目の秋となった。
徹底した情報統制に散文的で、人を食ったような報道対応。周囲のスタッフへの容赦ない要求に「ひよっこ」「まだアマチュア」といった若手選手への辛辣な苦言、そして対戦チームへの威嚇的な態度…。独善性と表裏一体の狂気の合理主義を貫いた。「勝利」の一点から逆算すれば「周囲から愛されたい」「嫌われたくない」という欲求すらそぎ落とすべきものだった。
「あんな人だとは思わなかった」。「同じ厳しいにしても人情味があった(前監督の)岡田さんの方がはるかに良かった」「戦術や起用に対する選手への説明も不十分だし…」。そう漏らす選手、コーチ、スタッフも実際にいた。自身のもとから去って行った者、一時は去ることを真剣に考えた者もいる。それでも価値観や野球観が食い違う相手に、妥協することはなかった。
敗戦後、試合について多くを語らない姿勢は時にファンの感情を逆なでし、大きな批判も浴びた。だが、ポーカーフェースを崩すことはなかった。火の玉守護神として甲子園の最終回に君臨し続けたメンタリティーは今も血肉になっている。抑えて当然、そうでなければバッシングの嵐。「チームを背負い、批判に耐え、その中で結果を出してこそ一流」とは現役最晩年に語っていた自身の信条だ。
藤川監督を現役当時から知る関係者の多くは「アイツは今、監督としての自分を必死に演じている」と声をそろえる。虎指揮官という役割をまっとうするためなら「嫌われ者の仮面」をかぶることさえ、いとわなかった。
ナイター開催日でも午前中から球場入りし、データや映像確認、ゲームプランの策定に没頭する藤川監督の姿を多くの関係者が目にしてきた。粟井球団社長もその一人で「1試合1試合の準備にものすごい時間と労力をかけてきてくれたが、今年はさらに拍車がかかっている。準備の重要性を率先垂範してくれた。メディアの前では喜怒哀楽を見せない人だが、心の中は常に動いていると思う」と語る。
滅私、没頭、凡事徹底――。勝つために必要なら自分がどう見られるかさえ切り捨てた。歓喜の夜には〝嫌われ者の仮面〟の頰を大粒の涙が濡らした。身を捨ててこそ、浮かぶ瀬は確かにあった。













