新型コロナウイルス感染症のパンデミックで、にわかに脚光をあびた江戸時代の予言獣「アマビエ」。肥後の国の海に現れ、6年間の豊作とその後に疫病が流行することを予言し、そうなった際には自分の似姿を描いて見せるように、と告げて去ったというもの。
そんなわけで新型コロナが蔓延している現在で再注目されることになったわけだが、実際にはアマビエは予言をしただけであり、絵があっても病気にかからないとか、治るといったことは明言していない。それでもアマビエの姿を描いた絵にご利益があると信じたくなるのは、そう考えるのが自然の流れと受け止められていたからなのだろう。
さて、アマビエの出現は当時の瓦版に描かれて人々の間に広まったわけだが、アマビエに限らず当時の瓦版はさまざまなものを伝えていた。
地震などの災害や火事の被害、仇討ちなどのスキャンダラスなニュース、政治風刺からちまたの変わったニュース、ちょっとした言葉遊びなどの読み物まで。そして、アマビエのように「妖怪が出た」という一報を伝えるものもあった。
妖怪といっても挿絵や文章にある特徴を読んでいくと、我々が知っているアザラシなどの動物だったりもするのだが、中には本当に妖怪としか言いようのない生物の発見を報じる内容も存在している。
「雷獣」などがその典型例で、捕まってはがされた皮のスケッチや、体の大きさを測定した結果などもつぶさに報告されているため、安易に作り話とも言えない奇妙なリアリティーさを感じさせる。
今回紹介するのも同様の、江戸時代に発生した奇妙な生物の記録である。
こちらは江戸時代、土州(現在の高知県)で発見されたある生物だ。「土佐の奇獣」とでも呼んでおこう。ギョロリとした大きな目と全身のしま模様が特徴的だ。しかし、尻尾が奇妙に四角くカギのように丸まっている。
大きさは頭から尻まで九寸六分(約28センチ)と小さく、手足も前足が五寸二分、後足六寸二分と15~18センチ程度。腹側や手足の内側には毛が生えていなかったようで、その部分がピンク色の絵の具で描かれている。
顔は真正面から見るとキツネに似ていたそうだが、横顔は絵の通りだったということで、大きな目もそうだが耳の形がウサギのように大きく立っているのが特徴的だ。また、小さくほっそりした体の割に重かったため、目方を量ったという内容が併記されている。
この生物を記した図画は「土州奇獣之図并説」と書かれた懐紙に包まれていたそうだが、見つかった日時や正確な場所は記されていない。さらに当時の様子などが分かる記述もないため、この生物がその後どうなったのかも伝わっていない。
腹部の毛が生えていないなどの記述から、何らかの病気で毛皮が変に見えたキツネなどの野生動物の赤ちゃんだった可能性もあるが、そうなると妙に四角い尻尾が気になるところだ。
結局、この生物に関する情報は他になく、現代でも未確認生物というほかないのである。