金メダル第1号はやはりこの男だ。東京五輪の柔道男子60キロ級決勝が23日、日本武道館(東京・千代田区)で行われ、2016年リオデジャネイロ五輪銅メダルの高藤直寿(28=パーク24)が楊勇緯(台湾)を下し、金メダルを獲得した。五輪の舞台で挫折を味わってから約5年。1992年バルセロナ五輪男子78キロ級金メダルで所属先の〝元柔道王〟吉田秀彦総監督ら、柔道関係者も舌を巻くほどの激変を見せた〝やんちゃ坊主〟が、ついに表彰台のテッペンに上り詰めた。


 進化を遂げたニュー高藤は粘り強かった。初戦を内股による一本勝ちで飾ると準々決勝、準決勝はゴールデンスコアの熱戦を制して決勝進出。決勝もゴールデンスコアに突入したが、最後は楊勇緯に3つ目の指導がいき、相手の反則で勝負あり。2004年アテネ五輪の野村忠宏氏以来、同階級では日本勢4大会ぶりの金メダルに輝いた。

 心身ともに大きく成長を遂げた。学生時代から「天才選手」として名をはせていたが、14年には寝坊による遅刻を繰り返したため、強化指定選手から降格。全日本男子の井上康生監督とともに丸刈りになるなど、悪い意味で目立つことが多かった。

 しかし、いまやそんな面影は一切見られない。新型コロナウイルス禍の影響で東京五輪が1年延期になっても「モチベーションが下がることはなかった」ときっぱり。吉田総監督も「正直、うちに入った時はやんちゃ坊主だった」と振り返った一方で「今は諦めがなくなったよね。昔は劣勢になると、すぐに気持ちが切れて『ああ、もうダメだ』となって、試合でもそれですぐポンって投げられていた。でも、子供が生まれて父親としてかっこいい姿を見せたいなという思いもあるのか、本当に気持ちが切れなくなった」と目を細める。

 人生最大の悔しさがあったからこそ、今の高藤がいる。15年グランドスラム(GS)東京大会で優勝した際には「普通にやれば、世界に負ける相手はいない」と豪語していた。ところが、リオ五輪で苦杯を喫し「まだまだ強くならないといけない」と猛省。常に柔道のことを第一に考えて生活するようになった。

 暇さえあれば柔道の動画を見て、自身の柔道やライバルの状態をチェック。吉田総監督も「柔道の話しかしない柔道オタクですね。しょっちゅうビデオを見ているし、柔道をよく知っている。相手がこう来たらこう持っていくとか、全部考えていて本当に研究熱心ですね」と舌を巻く。

 全日本男子のアナリストを務める鈴木利一氏も「年齢とともに体力というものを落とさないようにしているし、むしろそれ以上に鍛え上げるっていうところは彼自身も意識していた」と明かした上で「試合後は自分の映像をフィードバックしにほとんど来るし、付き人の伊丹(直喜)くんと連携して、本当に柔道のために生きている。年々研ぎ澄まされてるなって感じがあった」と成長ぶりを実感していたという。

 数々の壁を乗り越えて手にした金メダル。涙ながらに「本当にみんなに支えてもらって、この結果があると思う。豪快に勝つことはできなかったけど、これが僕の柔道です。今まで応援してもらってありがとうございます」と感謝の言葉を述べた。5年の時を経て、ついに夢を実現させた。