憧れ続けた人との初対面で、TAJIRIを待っていたのは歓迎の言葉ではなかった。プロレスラーとなり、メキシコで活動していた頃のことだ。現地のアレナ・コリセオで浅井嘉浩(ウルティモ・ドラゴン)と初めて顔を合わせた。ところが、浅井はTAJIRIが何者なのかを知らなかった。思い描いていた初対面とは、まるで違っていた。

 それまでTAJIRIは、浅井を意識しながらメキシコでの日々を送っていた。かつて浅井が使った体操用マットで450度スプラッシュを練習。アレナ・コリセオなどで試合を重ねるうち、自分の存在は浅井の耳にも届いているのではないかと期待していた。だが、どこの団体から来たのかと聞かれ、IWAジャパンにいたことを伝えても、浅井にはピンときていない様子だった。

 それでも、目の前にいるのはプロレスラーを志すきっかけになった憧れの人だ。浅井に憧れてレスラーになり、その背中を追ってメキシコまでやって来たことを伝えると、予想もしなかった言葉を投げかけられた。「日本に帰った方がいいよ」。メキシコでやっていくのは大変で、当時は日本の方がプロレスのレベルも高いという話も聞いた。

 では、TAJIRI自身はどう受け止めたのか。「悔しいって思ったことはなくて。相手にされるようになんなきゃいけないなっていう感じでした」。自分のことも、それまで歩んできた道も知られていなかった。そこで浅井に反感を抱くのではなく、自分がまだ相手にされるだけの存在になっていないと受け止めた。

 その受け止め方を、TAJIRIらしい言葉で表す。「浅井さんほどの人は雑魚を相手にしないわけですよ」。帰国を勧められても、矛先を浅井へ向けることはなかった。初対面によって、二人の間にある距離を思い知らされた。

 それを今では、浅井のすごさの一つとして挙げる。「初めて異国で会った日本人に『帰った方がいいよ』って言えるところがすごいですね」。相手がショックを受けるかもしれない。それでも、思ったことを口にするのが浅井嘉浩という人間だった。憧れの人を追い続け、ようやく実現した初対面。だが、浅井との距離は、まだ遠いままだった。