群馬県の前橋競輪場で「第29回寛仁親王牌・世界選手権記念トーナメント」(GⅠ)が15~18日の4日間に渡り開催された。優勝は脇本雄太(31)。圧巻の逃げ切り勝ちで5回目のGⅠ優勝を飾った。6月の高松宮記念杯と今年は2回のGⅠ制覇で先行日本一の看板は輝きを増す。
新田祐大(34)のグランドスラム達成なるかという話題もある中、山田英明(37)と庸平(32)の兄弟がGⅠ決勝同乗という快挙を成し遂げ、注目を集めた。英明は何度もGⅠ決勝に勝ち進んでいるが、庸平は初めてだった。そして、並びはどうするのか。
2人が尊敬する九州の先輩・井上昌己(41)は「(兄弟で決勝に勝ち上がり)すごいっすね!」と驚きつつ、「今なら英明が前の方が自然と思う」と話していた。庸平は前回りを志願したが、英明は「今は自分の方が機動力は上」と前で戦うことに決めた。
レースは2人で力を合わせたが、強敵には及ばず英明7着、庸平8着に終わった。初のグランプリ出場に向けて賞金の上積みができなかった英明は悔しがりつつ、こう話した。「庸平が『前で行くよ』と言ってくれたけど、断ると悔しそうな顔をしたんです」。庸平の心の変化を感じた。
2人が同じレースを走るのは今回が2回目だった。1回目は2017年9月地元の武雄共同通信社杯(GⅡ)だった。初日、自動番組の妙で一緒になったが、お互い別で戦った。「若かったんでしょう」と英明は振り返る。
そのシリーズの最終日、庸平と話す機会があった。色々な人から賛否両論、どうしても否定的な意見が多かったようで、「どうすればよかったのか、これからどうすれば」と落ち込んでいた。とにかく力をつけて、自分の戦い方を磨いていこう、というような話をした記憶がある。
それからしばらく庸平は低迷していたが、今はっきりと強くなった。結果は残せなかったが、決勝を終えると「レース前の作戦会議で、庸平が『後ろでけん制したり、どこか入れるところを取ったりできたら…、頑張るよ』とか言ってくれて、それがすごくうれしかったんです」と兄の和らいだ表情があった。
悔しい過去をバネに成長した庸平。また兄と同じレースを走り、今度は前で戦う時が必ず来るだろう。
悔しいといえば、準決後の清水裕友(25)の姿も印象に残ったシリーズだった。引き揚げてくると、通路を歩きながら涙をぬぐい、座り込んだ。その姿を見ていた松浦悠士(29)に「あの涙の真意は…」と聞くと「悔しさでしょう。1回も仕掛けられず…」とその松浦も声を震わせていた。
最終日、脇本に「準決後、清水が悔し涙を流していたよ」と声を掛けたら、「オレも相当、泣いてきたんで」という言葉が返ってきた。脇本も高い壁に何度も何度もはね返され、挑み続けて、つらい思いを乗り越えて今がある。よほど、清水の涙の意味が分かるのだろう。優勝した脇本の強さの中に、残酷とすら言いたくなるぬくもりがあった。
☆前田睦生(まえだ・むつお) 九州男児。ヘアスタイルは丸刈り、衣装は吊るしのスーツで全国各地の競輪場の検車場を闊歩している。日頃の不摂生を休日の多摩川土手ランニングでなんとかしようとしている姿の目撃情報多数。






