東京・神保町かいわいで約60年にわたって、天丼、とんかつを提供していた「いもや」が3月末に閉店した。同店はメディアに一切出ない、いわゆる取材NG店。先日、テレビ放送された寺門ジモンの「取材拒否の店 2018年春」では閉店後の放送を条件に門外不出とされていた店内の一部が紹介された。
ヒノキのカウンターにピカピカに磨き上げられた厨房、一心不乱にそれぞれの作業に徹する職人、固唾をのんで見守る客…。一見、小料理屋風の店構えで敷居は高いが、1000円でお釣りが出る大衆店だった。
ジモンは「外食の楽しみを知った店」と評し、記者も初めて、のれんをくぐったのは、25年ほど前の高校生の時と記憶している。とんかつ店では、ロースとヒレの2品を提供しているが、入店と同時に「とんかつ(ロース)ですか?」と尋ねられ、その圧に「ヒレでお願いします」と言えるようになったのは社会人になってからだった(最後まで無料というしじみのみそ汁のお代わりは言えなかった)。
神保町かいわいでは、昨年10月に「半ちゃんらーめん」(ラーメンと半チャーハンのセット)の元祖といわれるラーメン「さぶちゃん」が閉店したのに続く衝撃で、先月はただでさえ行列店なのに悲報を知ったファンが殺到し、長蛇の列をなした。
店主の高齢化や後継者不足は全国各地で問題となっているが、都心にある神保町はまた別の事情も抱える。先日、老舗古本店が、裏で児童ポルノを扱っていたとして、摘発される事案があった。
古書店関係者は「ただでさえ本が売れなくなっている時代なのにこの辺のテナント料は跳ね上がっているから、古書を売っていくだけではしんどい。店を畳むところは増えてくるよ」と嘆いていたものだった。地主なら、まだしも店子にはあまりに厳しい賃料になっている。
「いもや」が繁盛店ながらも、のれんを下ろしたのも関係者によれば、原材料費、経費の高騰があったという。この十数年で値上げしたのは数回あったかどうか。値上げに踏み切れば1000円を超えるメニューも出てくる。庶民に支えられた「いもや」の精神から反するであろうことも背景にはあったようだ。
神保町は古書の街と同時にカレーやラーメンなどB級グルメ店がひしめくことで味わい深い街を形成してきたが、このままでは古書店は廃れ、大手外食チェーン店ばかりが立ち並ぶ、味気のない街になりかねない。
(文化部デスク・小林宏隆)
