日本のプロ野球チームは、遠征時の移動をすべて一般の人と同じ交通手段で行う。さすがに駅や空港までは車を利用するケースが多いものの、新幹線乗車までのルートや飛行機の搭乗口、保安検査場もすべて同じだ。

 もちろん、日本シリーズ中もそうだった。場所は福岡空港。大分でラグビーW杯が行われた影響もあってか、かなりの観光客でごった返していた。普段はすんなり行けるところを、手荷物を預けるのに20分以上、保安検査場入り口に到着するまでは30分近くを要した。チームを乗せたバスが空港に到着する時間を考えたら、さすがに別ルートで入るだろうと思いきや、巨人ナインはほぼ全員、一般と同じルートで搭乗口付近までやってきた。

 この日、自分は他紙の記者とともに原辰徳監督(61)をマークした。機内への案内があるまで、隅の方に集まり、雑談や取材をするというのが通例だが、大混雑も手伝って周辺の反応もひときわ大きかった。歓声が上がり、サインを求められたり、あらゆる角度からスマホを向けられたり…。

 ふと思った。監督はこうした状況に、現役時代からウン十年とさらされているんだよな――。今さらながらいたたまれなく感じ、話が一段落したところで、なんとなく「これだけ混んでいるので、ラウンジから来られると思ったんですけど…」とうかがうと、サラッとこう返されてしまった。「俺、平気だもん」

「やっぱり一般の方の気持ちを知るというのは、世の中の勉強になる。だから満員電車にも揺られる。往々にして我々は視野が狭くなるケースがある。周りを見れる、周りから見られるということも大事だろうしね」

 確かに原監督はシーズン中、駅から宿舎までの移動をチームから離れて電車で移動するときがあった。「そういうことだったのか」と思わず感心してしまったのだが、バスに乗ったことは?と質問が及ぶと「1度だけある」という。

「うちの近くから焼き肉屋まで。歩いて20分くらいの距離だったから。あれって一番最初にお金払うんだよな。女房と2人で『どうしたらいいんだ』って(笑い)。お札でお釣りも出てくる。『すげーな!』ってなった(笑い)。帰りもどこで降りるのが一番近いかなとなったけど、ちょっと行き過ぎたな」。原監督が運賃を払い、都バスに乗る――。居合わせた報道陣全員がその映像をイメージし爆笑に包まれた。

 誰もが知る有名人。醸し出す雰囲気も違うだけに、日常的に公共機関を利用することはないだろうが、原監督のこうした心がけに感心つつ、我々とは世間の見え方が違うんだろうなぁと、その“次元の違い”も痛感した。

(運動部主任・佐藤浩一)