将棋の一手でどよめきが起こる…というのを初めて知った。

 自分にとって初の将棋取材となった、2月17日の「朝日杯オープン」の決勝・藤井聡太五段(当時)対広瀬章人八段の対局のことである。

 自分はいわゆる「観る将」(観戦専門のファン)と呼ばれる部類で、ネット中継は必ず観戦している。何が楽しいのか、と疑問を抱く方もいるかもしれないが、自分が喜びを感じるのは解説者から「これはすごい手が出ましたね!」というひと言が飛び出した瞬間だ。藤井聡太が「観る将」を魅了するのは、他の棋士に比べて、解説者からこのコメントが飛び出す確率が非常に高いことにあると思う。

 その中でも「究極の一手」が公開対局の大一番で飛び出した。それが広瀬戦の終盤、93手目に藤井五段が指した「4四桂」。この手を指した瞬間、それまで静寂に包まれた会場から「おお〜」とどよめきの声が起こったのだ。会場で観戦していた自分も「何だ、これは?」と思わずのけぞった。

 一見、ただのところだが、実は飛車の利きを止めつつ、角取りと金取りにもなっているという妙手で(詳しくはYou Tubeでどうぞ)、解説の佐藤天彦名人も「この手は見えませんでしたね!」と感嘆の声を上げた。結局、この手が決め手となって、藤井五段が棋戦初優勝と六段昇段の偉業を成し遂げた。

 プロ的に見てすごい手というのは結構あるようだが、プロが見ても、自分のような素人が見てもすごい手というのは、めったにお目にかかれるものではない。それは、例えばサッカーのメッシの異次元のプレーを見て歓声が上がるのと同じである。

 この一手は羽生善治竜王がNHK杯・加藤一二三戦(1989年)で放った「5二銀」(これもYou Tubeで)と並ぶ、将来語り継がれるような伝説的妙手、とまで言われているそうだ。しかし、まだまだ進化の途中の藤井六段が、さらに次元の違う、ファンをどよめかせる一手を放つ可能性は高い。

(編集顧問・原口典彰)