逮捕されるまで有料会見開き続けた保険金殺人犯

2014年05月01日 12時00分

 前代未聞の事件の取材で1999年夏から2000年春まで埼玉・本庄市へ通ったことがあった。

 同市の金融業・八木茂死刑囚(50=当時)が、経営する飲食店の男性客と、愛人といわれた3人の女性とを偽装結婚させたうえ、多額の保険金をかけ、2人を殺害、1人に重傷を負わせたとされる事件だった。

 疑惑が報じられたのが99年の7月で、偽装結婚(公正証書原本不実記載)で逮捕されるまで8か月かかった。警察主導ではなく「自分も殺される」と重傷を負った被害者男性がマスコミ関係者に駆け込んだのがきっかけだった。それだけでも異例だが、全国的に事件が知られたのは、この間、八木死刑囚が「疑惑の金融業者X氏」としてメディアに登場しまくったからだった。

 疑惑の報道を受け、集まった報道陣の前に現れたX氏は、逃げ隠れする様子もなく、拍子抜けするほど堂々としていた。後に共犯として逮捕される女性が店主を務める居酒屋に、記者を招き入れ質問に答えていた。

「ここも商売してるんだから、マスコミには客として金を払ってもらう」

 これが、逮捕後に「計200回、1000万円を巻き上げた男」と報じられた第1回目の有料記者会見だった。最初の数回は1人3000円だったが、報道陣の数が増え、店に入り切れなくなると、八木死刑囚が経営するパブ(クラブ)に会場が移り、料金も1人6000円に倍化した。

 今思えば、異常だった。疑惑のX氏がほぼ時間通りに現れ、カメラが取り囲む毎日。派手なスーツやデザインシャツに金色で統一したブレスレット、時計、指輪がそのスジの人間のようだった。悪びれる様子はみじんもなく、ほとんどの報道陣が年下だったこともあり、説教を始めたり、時には平手打ちを見舞ったり、やりたい放題。

「顔の出ない有名人」となり、暴漢に襲われたこともあった。人を食ったような態度で「毒物は1000%出ない。警察はオレを逮捕できないよ」と挑発する発言も平気でしていた。

 店の入り口近くの壁には手書きで「マスコミ実名ランキング表」を掲げ「ベスト10は取材のうまい、性格がいい記者。ワースト10は取材の仕方を知らない記者で、出入り禁止」とご満悦だった。ちなみに筆者はワースト10に入らないくらいの下位だったが…。

 話すネタが尽きると、X氏は変なサービス精神まで発揮し始めた。食用サボテンで殺害したと報じられた後には「これでやったってか?」と言いながら、サボテンを食べてみせた。逮捕3週間前には突如、ライフル銃(エアガン)を持ち出し、10メートル先のタバコを撃ち抜く腕前を披露。

「これまでは『またこれで人を殺すのか』と言われると困るから出さなかった」とニンマリする始末だった。

 当時の読者は「マスコミもXに踊らされている」と思っていたことだろう。有料会見をさせないためには、マスコミで手ごろな場所を借りて、X氏に来てもらう手もあったかもしれない。だが、事件取材現場のマスコミは、そこまで団結はしない。X氏は逮捕もされていない一般市民で、取材には本人の承諾が必要だ。そうした事情をずる賢く利用したのがX氏だった。

 不可解な点が多すぎたX氏の言動だったが、いまだに分からないのは、逮捕の2か月ほど前「来週から海外旅行に行く。移住もいいかな。とことん逃げますよ」とまで答えていたのに、逃亡しなかったことだ。

 08年に最高裁で死刑が確定した八木死刑囚はその後も無罪を主張。弁護団は現在も2度目の再審請求に向けて準備を進めている。

(文化部デスク・延 一臣)