新型コロナウイルス禍がさほどではなかった2月末、東京・新宿歌舞伎町で52年続いた“都内最後のグランドキャバレー”が閉店した。新宿の感染多発エリアとして歌舞伎町が名指しされだしたのは3月後半。「閉めるタイミングはよかった」(店関係者)という声もあるが、大量のホステスが路頭に迷うハメに。

 歌舞伎町のシンボル「風林会館」6階に入る「ロータリー」は、フロア面積240坪で席数150。店内は昭和の面影漂う“夜の社交場”だった。かつてはマスコミ関係の客が多く、閉店すると聞きつけ複数のドキュメント番組が密着取材。4月放送の予定だったが、テレビ朝日は放送したものの、NHKの定点観測番組「ドキュメント72時間」での4月の放送は無期延期になった。

「伝説」と呼ばれた老支配人が苦渋の決断をしたのは、閉店するほんの1か月前。お水歴二十数年のホステスA子さんが振り返る。

「閉店の噂を外から聞いてもまだ期待はしてたんだけど、1月末のミーティングの最後にオーナーから『閉める』と言われ、みんな言葉を失いました。その後の営業は暗くなっちゃって、接客中に泣き出す子もいて…。働きながら『明日には次の仕事見つけなきゃ』ってみんな大変でした」

 それも当然で、最後まで在籍していたホステス60人ほどは「下は25歳ぐらい、上は70歳超えで、平均年齢はアラフィフ」と、中高年女性が大半だからだ。

「昼の仕事と掛け持ちの子や、バイトでやってた主婦はまだいいですよ。あと、若かったら売り上げなくてもかわいければ採用されるけど、40歳過ぎると売り上げあっても店と折半とかだし…。多分、半数近くが夜の仕事を辞めました」

 残り半数が主に歌舞伎町の他店へ移り、数人は昼の転職先を見つけたという。A子さんも知り合いのツテで、80席ある歌舞伎町のクラブへなんとか移籍できたが…。

「3月2日から働き始めて連日満卓。ウイルスよけのストラップを強制的に付けられました。ところが百合子(小池都知事)が外出自粛を強く訴えた3月25日ごろからお客が来なくなり、女の子たちも怖がって来なくなり、4月1日から店を閉めました。深夜に働いてる別の店も同じ」

 緊急事態宣言解除を受け、6月1日から営業を再開したものの、結局13日で店は閉めることに。

「また新しい店を探さないと。でも、どの店もほとんど再開してないし、この状況じゃ客も戻らないだろうし、探すといってもね。私を心配して、現金やお米を送ってくれたお客さんが何人かいるので、恩返しのためにももう少し水商売やりたいんです。昼の仕事を探すという選択肢もあるけど、この状況で年も年だし…」。明るい話はまるでない。

 歌舞伎町には水商売系の店が1000軒以上あるといわれ、1月と比べ8万人余りの人出が消えたというデータも。そんな中、4月1日にオープンした店もあれば、30年続いた老舗クラブはコロナ余波で早々に店じまいしたという。

 地元関係者は「営業を続けられるかどうかはオーナーの力だと思うけど、小さいクラブやガールズバー、年配ママがやってるスナックなんかはヤバいよね。お客だって、職種によってはコロナで大打撃の人もいるだろうし」と語る。

(文化部デスク・醍醐竜一)