【デスク発ウラ話】2020年マスクの旅

2020年04月16日 12時00分

 湖北省武漢で新型コロナウイルスの感染拡大が問題になり始めた1月下旬、中国のSNS「WeChat」では、どんなマスクがいいかの一覧表が拡散していた。飛沫感染を防げる✔マークがついていたのは、外科手術用マスクと、米国国立労働安全衛生研究所(NIOSH)規格に合格した「N95」という特殊なマスクだけ。相変わらず奪い合い状態の一般的なマスク、布製の“アベノマスク”などには×印がついていた。

 中国の街なかのニュース映像を見ても、市民の大半は普通のマスク姿だったし、まぁ何とかしのげるのだろうが、興味本位でそのN95とやらをメルカリで探してみると、出るわ出るわ…。そして意外と高い。ちょうど売上金がたまっていたので、安いほうから選んで衝動買いした。それでも3枚999円とか2枚777円、7枚2500円とか5枚1450円とかだが…。

 他にも高性能そうでお手頃なマスクを含め、購入したのは計97枚、しめて1万2325円。2月1日のことだ。

 N95以上に到着を楽しみにしていたのが、繰り返し使えるウイルス対策マスク(3枚1200円)。商品説明には、1日使って2日以上陰干しすると30回使えると書いてあった。ところが届いてビックリ。1枚数十円の市販マスクと見た目がほぼ同じではないか!

 詐欺かと思い、メーカーのお客様相談室に電話。すると、画像掲載しているパッケージのマスクは、10年ほど前に生産終了していたことが分かった。しかも聞けば、マスクの使用期限は3年が目安だそう。そんなこと、商品説明にはひと言も書いてない。文句のメッセージを送ると、出品者は平謝り。だが2年前のドラッグストア主催イベントでのもらい物で、意図した詐欺ではないと言い張った。

 48年のこれまでの人生で、マスクをつけたのは片手で数えるほどしかなかった。人生初のマスク大量買いも後味が悪かったが、ちょうど中国で感染爆発が起きていた時期だったので、向こうの友達にマスクを送ることにした。

 最近LINEでたまにバカ話をしている広東省深センのJに、「マスク足りてる? 送ろうか」と聞くと、感動はされたが意外な返事だった。
「自分は今、暖房で部屋を暖かくして一日中家にいる。あえて外に出ない。マスクも十分あるから、どうか安全を保ってまず自分自身を大事にして」

 本当にいらないのかと念を押しても「普通のマスクなら十分ある。自分のために残しといて。もっと必要な人がいる」と、ニクいことを言われた。「東京はまだ大丈夫だから、私はいらない」と返信し、次は北京のTに「マスクいる?」と聞いてみた。

 Tは妻子持ちで、マスクも何かと入り用だったらしく「謝謝。今こっちで買うのは難しいから、可能ならいくつかよろしく」とのことだったが、ここで問題が。発送した2月10日はちょうど、日中間の航空便の運休や減便が相次いでいた時期。郵便局では「いつ届くか分からない。たぶん1か月はかかる」と言われた。
 2月21日、待ちきれないTから「EMS(国際スピード郵便)の追跡番号教えて」と連絡が来たが、私が選んだのは追跡できない最安の発送方法だった。ケチでゴメン…。
 マスクが北京に届いたのは3月6日。中国では感染者が減少し、逆に日本では増え始めていたころだったため、Tは「今はソッチがもっと必要じゃないの? かなり必要なら返送するよ」と言ってくれた。もうマスクはいらないのかと聞くと「うん、今はだいぶマシになって、もうこれ以上マスクはいらない」との答え。日本がヤバくなってきたのは中国でも知られていたようで、東京五輪開催延期が決まる前々日(3月22日)には「大丈夫? 気を付けなきゃダメだよ」と心配のメッセージをくれた。

 だが、これまた問題が。マスクが届いた時期がちょうどTのタイ出張(あるいはコロナ疎開?)と重なった。中国に帰ったら返送する算段だったらしいが、帰国後は14日間、自宅待機しなければならず、郵便局へは行くに行けず。しかも「友達に聞いたら、日本と中国は今、郵便をやめてるみたい。多分、もうちょっと待たなきゃ…」とのこと。自分はマスクをめったにしないから大丈夫だと言うと「おそらく今、東京のほうがもっとマスクが必要だと思うよ。自分自身を大事にしなきゃいけないよ」と諭された。

 コロナという“見えない敵”の脅威は、人類が一致団結するまたとない機会だ。これまでのようにもう、国や地域、人種や身分、宗教の違いで人間同士が争ってる場合じゃない。なのにどの国も自国のことで手一杯で、大国同士が責任のなすり付け合いまでしている。地球連合軍が結託して、エイリアン来襲に立ち向かう映画のようにはうまくいかない。こんなに文明が発達しているのに…。地球人はまだまだだ。

 せめてもの救いは、国が違う友達同士でお互いの思いやりを再確認できたこと。マスクはまだ北京から届かないが。

(文化部デスク・醍醐竜一)