大相撲春場所9日目(21日、大阪府立体育会館)、大関稀勢の里(29=田子ノ浦)が大関琴奨菊(32=佐渡ヶ嶽)を破り、唯一の全勝をキープした。常に真っ向勝負を貫いてきた男がまさかの注文相撲で勝負に徹し、悲願の初優勝へ一歩前進。一方の琴奨菊は2敗に後退し、いよいよ綱取りに向けて後がなくなった。いつになく注目を集めた和製大関同士による大一番。その明暗を分けたものとは――。

 注目の大一番はあっけない幕切れとなった。稀勢の里が当たった瞬間に右に動いて突き落とし。頭から突っ込んだ琴奨菊はあっさり土俵に転がった。常に真っ向勝負を貫いてきた男が見せた、まさかの注文相撲。熱戦を期待した超満員の館内は大きくどよめいた。取組後の稀勢の里は「体が反応してくれた。相手が低かった? よく見えていた」と振り返った。

 実力者の注文相撲は関係者だけではなく、ファンからも批判を受けがちだが、日本相撲協会の八角理事長(52=元横綱北勝海)は「褒められる相撲じゃないけど、勝利への執念が出てきた」と前向きに評価した。これまで日本出身力士による優勝と横綱の最有力候補と見られながら、1月の初場所では琴奨菊に賜杯をさらわれた。稀勢の里はリベンジに向け、ただならぬ執念を燃やしていた(本紙既報)。真っ向勝負にこだわらず、勝負に徹した姿はその表れと言っていい。

 ただ、稀勢の里が見せた相撲は“もろ刃の剣”でもある。これまで愚直なまでに正面からぶつかる相撲でファンからの支持を得てきた経緯があるからだ。今後に対戦するモンゴルの3横綱が、なりふり構わず変化を仕掛けてきても道理を言える立場ではなくなった。ファンを納得させるためには「内容」を「結果(優勝)」ではねのける必要がある。

 一方の琴奨菊は、ライバルの“執念”の強さを読み切れなかったことが誤算だった。昨年夏から体幹強化のトレーニングに着手。初場所の初優勝につなげたことは周知の通りだ。琴奨菊は体幹トレを取り入れた理由について「相手の変化を食わないようにすることだった」と明かしている。

 それまでは格下力士による変化を食って星を取りこぼすこともしばしば。優勝争いに加われない要因にもなった。新トレ導入後は相手の変化にも「対応できるようになった」と確かな自信も口にしていた。

 ただ、この日の稀勢の里の動きは完全に想定外だったに違いない。幕内史上最多となる59回目の顔合わせ。互いに手の内を知り尽くしたライバルとの対戦を前に「ゴチャゴチャ考えなくていい。自分が目一杯いける相手。きっと、いい相撲になる」と予測していた。

 今回も当然、真っ向勝負になると踏んで頭から突っ込んでいったが…。その思い込みが大きな“落とし穴”となった。取組後に「あんなことをしなくても強いのに」と思わず恨み節も口を突いたが、後の祭り。綱取りを目指す上で痛すぎる黒星となった。

 互いの思惑が明暗を分けた大一番。果たして、最後に笑うのは誰か。