【フランス・パリ23日(日本時間24日)発】レスリングの世界選手権3日目、女子55キロ級決勝で、初出場の奥野春菜(18=至学館大)がオドゥナヨフォラサデ・アデクロイエ(23=ナイジェリア)を5―4で下し、金メダルを獲得した。レスリング女王・吉田沙保里(34=至学館大職)と同じ過程を歩み“沙保里2世”と呼ばれる注目株。神様と尊敬する“本家”に続き、世界の頂点に立った。

 優勝が決まると両手で顔を覆い、こみ上げる涙をぬぐった。うれし涙だけではない。「代表の重圧があり、ホッとして泣いてしまった。自分の方が気持ちが勝っているし練習もしてきたが、相手の目の前に立ったら怖かった。優勝できてうれしいんですが、内容はまだまだ。世界に通用するプレーができてないので、反省点が多く、だめだなと思って涙が出る」。さまざまな感情が一気にあふれ出た。

 第1ピリオド、2015年大会53キロ級銅メダルのアデクロイエから1ポイントを先制したが、片足を取られ場外に出され1―1と追いつかれる。第2ピリオド、焦ることなくチャンスをうかがうと、片足タックルなどでポイントを追加し5―1とリード。最後に反撃を許したが、勢いに押されることなく守り切った。

 吉田の父である故栄勝氏が開いた三重・一志ジュニア教室出身。久居高から至学館大に進んだ。吉田とまるで同じ過程を歩んでいることから“沙保里2世”として注目を集める。栄勝氏にはチャンピオン道を徹底的に教え込まれた。一志ジュニア伝統の武器・タックルだけではなく、生活面にまで及んだ。靴のかかとを踏んで歩くことなど論外。「洗濯物のたたみ方、それこそ靴下みたいな小さいものでも、きれいにたたむよう細かく徹底されました。『こういうことができないと強くはなれないんだ』と言われました」(奥野)。確かに女王は整理整頓が得意。王者の哲学は受け継がれている。

 吉田が02年に世界選手権に初出場し優勝したのも55キロ級。また歴史が重なった。それでも「吉田選手は神様です。競技者としても人間としても尊敬している」と憧れ、あがめる存在とあって「同じ世界チャンピオンといっても、内容はまだまだだし、日常の行動も追いついていない。自分も同じようにすごいと思っていないです」とどこまでも謙虚だ。

 20年東京五輪金メダル量産へ、またも日本に期待の女子レスラーが誕生した。「自分はまだまだなのでもっと練習したいです。まだ日本で勝ってない選手もいる。チャンピオンだと思うのは今日まで。明日からは切り替えて、東京五輪に向けて頑張っていきたい」と激しい国内代表争いへ既に練習モードの奥野。どこまでも自分に厳しい18歳が、五輪の頂点を目指す。

【吉田沙保里「よく頑張った」】

 今大会、日本テレビの解説者としてパリ入りしている吉田は、会場で後輩の試合を見守った。「よく頑張った。最後は弱気になっていたけど、何とか勝ってくれて良かった。世界チャンピオンになったという自信を持ってこれからも頑張ってほしい」と笑顔でたたえた。

【プロフィル】おくの・はるな 1993年3月18日生まれ、三重県出身。2014~16年インターハイ3連覇。16年世界カデット選手権52キロ級優勝。16年全日本選手権53キロ級5位。17年全日本選抜選手権55キロ級優勝。158センチ。