リオデジャネイロ五輪レスリング女子58キロ級で女性では史上初となる五輪4連覇を果たした伊調馨(32=ALSOK)に対し、政府は25日、国民栄誉賞を授与する方針を固めた。今後、有識者の意見を聞いたうえで最終決定する。五輪4連覇、そして国民栄誉賞受賞と偉業尽くしの生きるレジェンドは国際的な評価もうなぎ上り。去就に関して明言は避けているものの、国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長(62)もその功績を絶賛しているほどで、今後は活躍の場が世界へと広がる可能性も出てきた。

 伊調の国民栄誉賞受賞は本紙がいち早く報じた(18日発行紙面)通りに調整中で、日本レスリング協会の福田富昭会長(74)は「決定となれば、これ以上喜ばしいことはありません」と大歓迎した。正式決定すれば、レスリング界では五輪3連覇を含む世界大会13連覇を評価されて2012年11月に同賞を受賞した吉田沙保里(33)以来の快挙。この日、伊調は「国民栄誉賞を授与すべき」との世論が高まっていることについて「自分には似合っていない気もします。記録ではなくて、国民の皆さんに勇気や感動を与えられる人(が受賞すべき)だと思うので、自分はまだかなと思います」と謙遜したが、誰が見ても資格は十分だ。

 五輪4連覇という前人未到の偉業を遂げた伊調には、国内だけでなく、国際的な注目も高まっている。世界レスリング連合(UWW)名誉副会長も務める前出の福田会長によれば、UWWでも伊調の4連覇は話題になっており、何らかの表彰が行われる模様だ。

 現時点で、伊調は去就について明言を避けている。ただ、仮に指導者へ転身した場合は「伊調の技術は、女子では抜きんでている。海外でも教えてほしい選手ばかり。間違いなく、指導者として引き抜こうとしますよ」(日本レスリング協会関係者)と強烈なラブコールが海外から起こるのは必至だ。過去には、伊調の姉でアテネ五輪と北京五輪銀メダルの千春さん(34)へ、米国から数回コーチ就任のオファーがあった。日本のメダリストの動向は常にチェックされており、世界トップの技術を誇る伊調ならなおさら。日本レスリング協会はかねて「本人が希望するなら海外でコーチも大いに結構です。すべて本人次第」(福田会長)とウエルカムの姿勢だが、伊調対日本となればシャレにならない事態ともなりかねない。

 それはともかく、伊調に熱視線を送っているのはレスリング界だけではない。リオ五輪閉会式では、伊調は5大陸の代表の1人として特別ステージに上がった。IOCのバッハ会長も「格闘技を知っていればいかに大変なことかわかると思う」と伊調の4連覇に言及したほどだ。すでに伊調は14年のユース五輪南京大会でIOCから日本人でただ1人、アスリート・ロール・モデル(模範選手)に選ばれ、現地で若手選手の模範として活動している。責任感が強い伊調は「もっと英語ができれば、もっと(若い選手に)伝えられたのに。勉強しないといけない」と、英語力アップの必要性を痛感していた。今後は海外への語学留学も視野に入れており、IOCのアスリート委員など、国際舞台で活躍することも十分に考えられる。

 その才能と功績への評価は世界共通。伊調がどんな道に進むにせよ、持ち前の探究心と粘り強さで成功を収めるに違いない。