【ブラジル・リオデジャネイロ18日(日本時間19日)発】絶対女王がショッキングな敗戦――。レスリング女子53キロ級決勝で吉田沙保里(33)はヘレン・マルーリス(24=米国)に1―4の判定で敗れて銀メダルに終わった。前日の女子58キロ級・伊調馨(32=ALSOK)に続く五輪4連覇と、17大会連続世界一の偉業もならず。吉田は号泣しながら何度も「ごめんなさい」を繰り返した。

 立ち上がることができなかった。目指してきた4連覇を成し遂げることができなかった。「たくさんの方々に応援していただいたのに銀メダルで申し訳ないです。ごめんなさい」。涙を流しながら言葉を絞り出した。

 第1ピリオド、相手の攻撃タイムを防いで1点を奪う。しかし第2ピリオドで相手に背後を奪われ2点を取られると、その後も攻撃を許して2点を奪われた。必死にタックルで反撃するが、徹底的に防御する相手に必殺技を決めきることができなかった。

「打倒・吉田で来るとわかっていたが、最後に落とし穴にはまるとは思わなかった」(吉田)

 女王の4連覇を阻止するため、ライバルたちはこれまで以上に徹底して吉田を研究してきた。マルーリスも吉田のタックルを警戒し、動きを封じた。昨年の世界選手権では55キロ級で優勝したマルーリスは、53キロ級に落として五輪に出場。2011、12年の世界選手権では吉田にフォール負け。しかも12年大会は決勝で激突している。吉田を知り、打倒・吉田に燃える一人だった。

 吉田も「最後出し切れず、気持ちで負けてしまいました。相手の押しが強くて、どうしても私に勝ちたいんだなと伝わってきた」と話すと「4年前とはパワーが違った。55キロでも減量に苦しんでいたのに、53キロでもあれだけ動けて強い選手にも勝っている。実力が上がっていた」とマルーリスの執念をたたえた。

 体調も絶好調とは言えなかった。昨年からぜんそくを発症。薬で発作を抑えてきたが、風邪をひくと症状が出ることもあった。33歳という年齢もあり、細かい故障にも悩まされた。

 それでも、練習では誰よりも集中して若手を引っ張り強化を続けてきた。

「吉田は今でも若い選手よりも集中力があるし、後輩たちができないメニューができたり、基本通りちゃんとやる。そして後輩にしっかり教える。心も教える。選手兼コーチ。後輩はみんな『神様』みたいに尊敬している」(日本レスリング協会・栄和人強化本部長)

 大舞台を前に不安になる後輩たちを励まし、嫌な顔一つせず、心・技・体、持っている全てを教えてきた。4連覇こそならなかったが、吉田の教えは後輩たちに脈々と受け継がれている。

 吉田は今後について「自分は30年間ここまで頑張ってきたので…まあ…悔しいことは悔しいですけど、気持ちをまた切り替えたいと思う。今後はまだわからないです」。支えてきた母の幸代さんは「娘をマットで見るのは最後かなと思って見ていました。娘の気持ちはまだ辞めるとも、引退するとも聞いてないんですが、それは任せているので。あとは自分の人生を何らかの形でやり直してもらったらいいなと思います」と語った。

 4連覇こそ逃したが、吉田は前人未到の険しい道のりを必死に歩き続けてきた。それは日本中が知っている。吉田が「ごめんなさい」と謝る必要はない――。

☆よしだ・さおり=1982年10月5日生まれ。三重県出身。父・栄勝さんが営む一志ジュニア教室で3歳からレスリングを始める。久居高から中京女子大(現・至学館大)卒。2002年世界選手権に初出場初優勝を果たして以降、同大会13連覇。五輪は04年アテネ大会から3連覇。12年に国民栄誉賞を受賞。ニックネームは「霊長類最強の女」。157センチ。