リオ五輪への影響は――。レスリング女子58キロ級の伊調馨(31=ALSOK)がヤリギン国際(1月29日、ロシア・クラスノヤルスク)で13年ぶりの黒星を喫したことが波紋を広げている。1日に帰国した伊調は「相手が強かったというより、自分が弱かった」と自分を責めたが、相手の実力が未知数なだけに、楽観ムードを警戒する指摘も飛び出している。

 ヤリギン国際の決勝では、0―10と大差をつけられ、5分9秒でテクニカルフォール負け。リオでの金メダルに最も近いと言われる鉄板・伊調の“歴史的敗戦”が与えた衝撃は大きかった。出発時には3人しかいなかった報道陣は25人に膨れ上がり、テレビ局も数社が駆けつけた。

 伊調は取り乱すことなくハッキリとした口調で質疑に答え、「あんな自分初めてだったし、『あんな自分いるんだな』ってびっくりもしてます」と試合を冷静に振り返った。敗因については、勝利より、求めるスタイルを貫き過ぎたことを挙げ、五輪とは区別していたことを強調。日本選手初の五輪4連覇へ「五輪だけは勝ちにこだわらないといけない」と自信ものぞかせた。

 ただ、気になるのは対戦相手のオホン・プレブドルジ(22=モンゴル)の評価だ。これまで世界ジュニアの経験しかない無名選手。日本選手団を率いた成富利弘監督(51)は試合後、情報収集に追われたことを明かし「国内でもまともに勝てない。リオ代表? 急浮上するかもしれないけど、可能性は少ない」と楽観的な見方を示した。

 しかし、一方で、伊調が所属するALSOK・大橋正教監督(51)は「驚いた。(伊調は)スロースターターなので、最初は相手にペースがいっても、最後は自分のペースに持ち込む。それが結局、修正できなかった。最初から最後まで相手の流れ」と話し、伊調の“異変”に首をかしげた。さらに、今後気になる点に「感覚」を挙げ「『やりようによってはなんとかなる』という感覚なのか、『ヤベーよ、アレ』と思うのか」とし、伊調の“後遺症”を心配した。このため、力強さが特徴のモンゴル人対策も行っていくという。

 プレブドルジの勝利には、モンゴルレスリング協会会長の元横綱朝青龍(35)がツイッターで狂喜。今後、特別に英才教育を施す可能性もある。勢いに乗る若手は実力以上の力も発揮するだけに、“伊調の自滅”だけで片づけるのはいささか危険かもしれない。