【山本美憂コラム】闘病の弟のノリからダメ出し「お前は打撃がダメだから!」 パンチ強化に乗り出す

2022年07月26日 16時00分

平仲会長(中)とファイティングポーズの美憂と徳郁さん(本人提供)
平仲会長(中)とファイティングポーズの美憂と徳郁さん(本人提供)

【山本美憂もう一息!(25)】総合格闘技(MMA)デビューとなった2016年9月のRENA戦で敗戦。コーチで弟のノリ(徳郁さん)は「お前は打撃がダメだから!」とパンチの強化に乗り出しました。ノリの行動は速かった。沖縄・豊見城にある平仲ボクシングスクールジムの平仲信明会長に電話し、指導してもらう手はずを整えたのです。

 ノリは以前テレビ番組で平仲会長を知り、すぐに連絡を取るほど憧れていました。ジムの2階に私と弟の家族が一緒に住み込み。アーセンと私は練習し、次男のアーノンと長女のミーアは、カナダの学校から現地のインターナショナルスクールに転校し、元気に通いました。2家族、起きるのも練習に行くのもご飯を食べるのも一緒。家族みんなで勝ちにいく感じで、この時は本当に楽しかった。平仲会長は快く受け入れてくれ、非常にお世話になりました。

 沖縄は大好きな場所になりました。海も気候も最高ですが、みなさん、とても優しく地域みんなが家族のような感じでした。特にアーノンが野球を始めてからは、同じチームのお父さん、お母さん方がすごく面倒を見てくれました。「美憂さんは自分の練習で大変だろうから」と。沖縄で知り合った方々は、自分の子供のように2人と接してくれた。寒いカナダと真逆の環境でしたが、子供たちも沖縄が大好きになりました。

 打撃の練習は厳しかったですが、好きでした。もともと競技に対する憧れがあったので、難しいし、痛いパンチも飛んでくるけど、好きなことを思う存分できて、とてもうれしかったです。ただ、コーチとしてのノリは本当に怖かった。もう弟ではなかったです。

 練習がうまくできなかったりして、私も家族だから顔に出てしまったりしたんです。するとドスの利いた声で「そんなんだったらやめろよ!」と怒鳴り声が飛んでくる。「そこで気持ちが折れていいのかよ!」「その顔何なんだよ!」「やらないなら勝てないからもうやるな!」。どうしても逃げられない状況をつくってくる。怖くてトラウマになったほど。練習以外でも、MMAの話題が出ると怒られると思ってびくびくしていました。それだけ本気で私を教えてくれました。

 16年大みそか、アンディ・ウィン選手に敗れ2連敗。翌年7月、3戦目のキャシー・ロブ選手との試合でやっとMMA初勝利を挙げることができました。沖縄で待っているノリにいち早く電話で報告すると、喜んでくれました。周囲には「自分が勝つよりうれしい」と言っていたそうです。

 沖縄に戻り、小さいけれど初めてMMAでもらったトロフィーをノリに渡すことができました。胃がんと闘うノリが笑顔で元気になってくれることが一番。しかし、病は容赦なく弟の体をむしばんでいきました。

 ☆やまもと・みゆう 1974年8月4日生まれ。神奈川県出身。72年ミュンヘン五輪代表の父・郁榮氏の影響で小2からレスリングを始める。87年に中1で女子初の全日本選手権を制覇(44キロ級)し、47キロ級も含め5連覇。同選手権では計8度の優勝を誇る。91年、年齢制限のある世界選手権に特例で出場し史上最年少の17歳で優勝。94、95年も世界を制した。2016年にMMAに転向し「RIZIN」で女子格闘技をけん引。3人の子を持つ母。156センチ。

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