【ウズベキスタン・タシケント10日発】レスリングの世界選手権3日目、女子48キロ級で登坂絵莉(21=至学館大)が大会2連覇を果たした。

<レスリング世界選手権・女子48キロ級決勝>決勝の相手は、最強の敵と見ていた五輪銀メダリストを準決勝で破ったイオナニナ・マトコワスカ(32=ポーランド)。序盤は動きが硬く、タックルを潰され2点を先制される。しかしそこからは登坂の独壇場だ。第1ピリオド終了間際に渾身のタックルで2点。アンクルホールドで加点し、3―2で第2ピリオドを迎えた。あとは登坂の一方的な展開となり、10―2の圧勝で2連覇を果たした。「強い選手が出たなかで優勝できて、去年よりずっとうれしいです」と満面の笑みだ。

 152センチの小柄な体ながら、パワーは天下一品だ。栄和人監督(54)も「登坂の上半身の筋力はものすごいよ。女子にもグレコローマンがあればやらせてもいいぐらい」と絶賛する。

 その屈強な肉体は、小学生のころから鍛えられた。父の修さんが近所のホームセンターでロープを購入。公園にあった「高鉄棒」からつるし、座った状態から両腕だけでロープを登る練習を毎日行った。見た目には地味な練習だが、上半身の筋力がなければ少しも上がれない厳しい特訓。格闘技のトレーニングでは定番とはいえ、小学生の女の子がやるとは…。

「高鉄棒からヒモをぶら下げ始めたら、普通の人は『何をする気だ!』ってびっくりしたと思いますよ。小学校、中学校と毎日その綱登りを7、8往復。あと鉄棒で懸垂を20回やっていました」(登坂)

 父親の“手作り”の過酷なトレーニングを欠かさなかったことで、現在でも登坂は綱を登らせたら女子ナンバーワン。屈強な上半身が、攻撃に確実に生きている。

 世界2連覇を果たし、2016年リオ五輪金メダルがまた近づいた。登坂には五輪にまつわる忘れられない思い出がある。2004年アテネ五輪で初めて女子レスリングが採用された時だ。五輪前に、女子チームは富山で合宿。上市町の山中にある真言密宗大本山「大岩山日石寺」で吉田沙保里(31=ALSOK)ら女子代表4人が滝に打たれる精神修行などを行った。この時、登坂は小学生。「サインをもらうために行く先々に走って回って追っかけをしていました。今、沙保里さんと同じ場所で練習しているなんてほんと驚きです」

 それが、いまや新世代の世界女王。「今大会は中国が一番手ではないし、来年はもっと厳しくなると思う。今回見つかった課題、スタミナなどを克服していきたい」。夢の五輪女王へ進撃を止めるつもりはない。

☆とうさか・えり=1993年8月30日生まれ。富山県出身。世界選手権は12年に2位、13年に初制覇。13年ユニバーシアード夏季大会で金メダル。全日本選手権は2連覇、全日本選抜選手権は3連覇している。仁川アジア大会代表。152センチ。