東京五輪の世界最終予選(5月6~9日、ブルガリア)に臨む男子フリー57キロ級の元世界王者の高橋侑希(27=山梨学院大職)がリモート取材に応じ、五輪に懸ける思いを激白した。

 今大会は11日まで行われたアジア予選(カザフスタン)で計量失格したリオ五輪銀メダリストの樋口黎(25=ミキハウス)の“代役”として派遣される。思わぬ形での出場には「正直に言いますと…」と切り出し「ボク自身の気持ちとしては、チャンスが回ってきてうれしい。今までコロナで期間が延びたり、続けるのが苦しかったし、本当に何のためにやってるんだろうって気持ちがあったので」と率直な心境を口にした。

 妻と食事中に電話を受け、急きょ出場が決まったことを告げられた。「今日、試合だねってしゃべっていて。日本時間だと1時半くらい? それより早く結果がきて、あぁみたいな。夢みたいな感じでしたね。妻はすごく喜んでいましたが、僕の方がケロっとした感じでした(笑い)」

 2019年の世界選手権でも五輪出場枠を逃し、同年の全日本選手権決勝でも樋口に敗戦。東京五輪はほぼ絶望的となった。「練習していても出れるかどうか分からない。諦めるというより、気持ちが入らなかった部分もあった」と言いつつも、アスリートとして「可能性はゼロとは言われなかった。何が起こるか分からないスポーツ競技。最後まで諦めずにやっておりました」と準備だけはしていた。

 この5年間は様々な経験をした。16年リオ五輪には出場できずに地獄を見た。その思いを今、こう振り返った。

「本当にどん底まで落ちた。もうこれ以上つらいことは今後ないだろうな、くらい。様々な人生がある中で、こんな経験させてもらったのがレスリング。でも、苦しい経験が不幸とは全然、思っていなくて、本当にありがたい気持ち。人生、楽ありゃ苦もあるみたいな。その『楽』になるよう東京で花を咲かせたい」

 今大会、高橋が2位以内で出場枠を獲得した場合、代表を懸けて樋口とプレーオフを行う。一時は消えかけた夢――。「諦めなければチャンスが回ってくる。口で言うだけではなく行動で伝えてたい」。後輩たちへ、試合で無言のメッセージを発信する。