【どうなる?東京五輪・パラリンピック 緊急連載(21)】新型コロナウイルスの感染拡大でスポーツ界が大打撃を受けている。1952年ヘルシンキ五輪からメダルを取り続け、東京五輪でも金メダル量産の可能性が高いレスリングの日本代表もその一つだ。練習環境が限られ、各自できる範囲で地道に練習を続ける一方で、“超濃厚接触”という競技特性も影響するレスリング界の現状を探った。

 3月24日に東京五輪の1年延期が決まった直後、レスリングは早々に4、5月の日本代表強化合宿の中止に踏み切った。当時は味の素ナショナルトレーニングセンター(東京・北区)も使用可能で、練習環境に大きな変化はなかったが「7月(当初の東京五輪開幕)に合わせ厳しい練習をしてきた選手たちを一度、休ませたかった。ずっと張り詰めていた精神も解放させたかった」(日本レスリング協会・福田富昭会長)という配慮からだった。

 しかし、所属に戻った選手たちを取り巻く環境は次第に厳しくなる。4月に入ると、多くの大学で入校禁止や練習停止の措置が取られた。ある大学関係者によれば、自主トレを行うにしても、野外に出て少人数でランニングするだけで苦情が入るようになったという。強化に必須の、相手との接触練習などもってのほかだ。7日に7都府県を対象に緊急事態宣言が出されたこともあり、現在は各自が個別にできる範囲の練習をするしかなくなった。

 レスラーたちには、人との距離を保たねばならない期間が長びくほど、競技に影響が及ぶ苦悩がある。「この状況では仕方がないが、相手とコンタクトする練習が非常に大事な競技。それが今はできない。このまま長く続けば、(選手の)感覚が鈍ってしまうことは怖い」(ある強化関係者)

 日本協会は、女子57キロ級の川井梨紗子(25=ジャパンビバレッジ)、男子グレコローマン60キロ級の文田健一郎(24=ミキハウス)ら8選手がすでに持つ東京五輪の代表資格を維持する方針を固めている。残る10階級は来年春に延期されたアジア予選などで五輪出場枠取りに臨むが、練習の本格再開時期は不透明だ。5月28~31日に予定されていた全日本選抜選手権(東京・駒沢体育館)も中止になった。

 日本協会の西口茂樹強化本部長(54)は「レスラーは普段からつらい減量や練習がつきもので、耐えることには慣れている。今こそ耐えていきたい」と語る。日本のレスリングは先に見える希望の光を信じている。