【カザフスタン・ヌルスルタン18日発】悲願成就の裏に「2大カリスマ」がいた――。レスリングの世界選手権5日目、女子57キロ級準決勝で川井梨紗子(24=ジャパンビバレッジ)がナイジェリア選手を下し、19日の決勝に進出。銀メダル以上を確定させ、2020年東京五輪代表を決めた。五輪4連覇の伊調馨(35=ALSOK)とのシ烈な代表争いを制した勢いに乗って、一気に五輪切符も獲得。これは伊調と、五輪を含む世界大会16連覇の吉田沙保里(36)にメンタルを徹底強化されたおかげだ。

 国内では五輪4連覇の伊調、さらに世界の実力者にも勝ち、悲願の東京五輪切符をつかみ取った。「馨さんに勝って五輪に出たいというのは4年前も…。2015年の世界選手権(63キロ級で2位)を思い出してここに来た。いろんなことがありながら立ち位置も変わって4年後、ここにいることに幸せを感じる。後悔する6分間にはしたくないと思った」(川井梨)

 16年リオ五輪に向けては周囲の勧めもあり、不本意だったが、伊調のいた58キロ級から63キロ級に転向して五輪初出場で金メダルを獲得。今回は伊調との“3番勝負”を制して結果を出した。4年前の自分を超えたのだ。

 伊調の存在が川井梨をさらに強くした。五輪4連覇女王との戦いで「レスリングというより、精神的に強くなれたと思うことが多い」と振り返る。昨年末の全日本選手権で復帰した伊調に敗れ、「やめよう」と決めたほどどん底に落ちた。家に帰り、テレビをつけると試合のニュースが流れる。テレビを消しても頭に浮かび、その日は眠れなかった。年明け、仕方なく初練習に参加し体を動かしたが、気持ちが戻るのには時間がかかった。

 そんな時、周囲に「こんなに注目されるのは梨紗子と馨さんだからだよ。高校生と馨さんだったらここまで注目されない」と励まされ「確かにな」と思うようになった。川井梨はその際の胸中を打ち明ける。

「五輪チャンピオン同士の代表争いは今までにないこと。それを自分が憧れていた馨さんとできる。馨さんがここまで続けていなければ実現しなかったし、自分がリオ五輪で階級を変えて金メダルを取らないとできないこと。注目される試合をできることがうれしいと思えるようになった」

 再び伊調に負ければ世界選手権の道が絶たれる6月の全日本選抜選手権前には、またも気持ちがネガティブに。練習中に泣いたこともあった。その姿勢に「カツ」を入れたのは霊長類最強女王だ。指導に来ていた吉田は泣いている川井梨をこう諭したという。「試合は来るものは来ちゃうし、試合までの日数はみんな一緒で同じで、限られている。自分次第、考え方次第、過ごし方次第で変わってくる。絶対、今から一つでも悪いほうに考えちゃだめだ!」

 これで川井梨が“変心”できた。「それですごくスイッチが入って切り替わった。うまくいかないことはあったんですけど、悪いほうに考えないようにしようと。沙保里さんは本当にメンタルが強い」。世界16連覇の実績はダテではなかった。

 昨年末から9か月間の経験が今大会で生きた。この先、誰も達成できないであろう超人的な記録をつくり上げた2人の最強女王によって強化された精神面。新たな武器を手に入れ、絶対王者を継承すべく決勝、そして東京五輪でも必ず勝つ。

☆かわい・りさこ 1994年11月21日生まれ。石川県出身。愛知・至学館高―至学館大出。63キロ級で2016年リオ五輪金メダル。世界選手権は17年に60キロ級、18年に59キロ級で優勝。6月の全日本選抜選手権、7月のプレーオフで伊調馨に2連勝し、世界代表の座をつかんだ。妹の友香子(至学館大)は62キロ級代表。160センチ。