“第3ラウンド”はどうなるのか。レスリングの全日本選抜選手権最終日(16日、東京・駒沢体育館)、注目の女子57キロ級決勝は五輪4連覇の伊調馨(35=ALSOK)がリオ五輪63キロ級金メダルの川井梨紗子(24=ジャパンビバレッジ)に4―6で敗れて準優勝。世界選手権(9月、カザフスタン)の代表争いは7月6日のプレーオフ(和光市総合体育館)に持ち越された。

 0―1で迎えた第2ピリオド、川井梨に片足タックルからアンクルホールドの連続技で4点を奪われた。怒とうの逆襲で追いかけたが、あと一歩届かず、伊調は「梨紗子の圧力や構えもあって(攻撃に入る)勇気が足りなかった」と振り返った。

 4月のアジア選手権(中国)では、韓国選手との対戦でバッティングに遭い、前歯の1本が3分の2ほど欠けた。軽い脳振とうも起こし、半日頭痛がしたままだったという。古傷の首や足首を痛めたこともあり、最近では満足に練習できない日々が続いた。伊調は「いかに自信を持って臨めるかは練習量で決まる。でもケガをするとマットに上がれなかったり、気持ちの面でも強くなれなかったりする。それが一番難しい」と吐露した。

 昨年12月の全日本選手権を制しており今大会で優勝していれば、世界選手権代表に決まっていた。さらに世界選手権でメダル獲得となれば、東京五輪代表に決まる。今回の敗戦でアドバンテージはなくなった状況だが、落胆する様子はなく「これでイーブンになった。次が本当の勝負」と表情を引き締めた。
 そもそも伊調陣営は「あくまで挑戦者。誰にでもそんなに簡単に勝てると思っていない」(田南部力コーチ)という姿勢を続けており、どんな結果も“想定内”。昨夏に復帰を決めてからここまで、大変な苦労を強いられてきたからだ。

 実際、復帰を決めた当時のコンディションは「アスリート」とはかけ離れていたという。2016年リオ五輪後、休養していた2年間のブランクで筋肉が相当落ちており「手をとったら折れそうなほど細く、練習相手が『壊してしまいそうで怖い』と嫌がったほど」(同コーチ)という状態からスタートした。
「構えができない。マットに立ってられない。幼稚園の運動会でお父さん、よく転ぶでしょ? あれと同じ。張り切ってるけど、昔のイメージで走ってると筋力がなくて足がついていかず空回りする。まったく、自分の頭の中と体が一致しない」

 その状態からわずか半年で迎えた全日本選手権で優勝したのは、まさに驚異的な復帰劇だった。一方で大会後に青森・八戸に帰省した際には、3日間寝たきりだったというから、エネルギーを使い果たしていた。要するにいまだ体力、技術は発展途上にあり、ケガに向き合いながら試行錯誤している状態。「挑戦者」という言葉は決して口先だけではないのだ。

 五輪への道が簡単ではないことを十分分かっているからこそ、今後について悲観もしていない。田南部コーチはかねて「負けてからもっと本気になる選手。練習でも息がつまってからプラスにしていく。ケガをすると工夫して練習しないといけないし、そういうときに自分で自分のレスリングを見つめ直す。課題をやり切るという強さがある」と評価する。望み通りの動きができるようにコンディション調整がカギとなりそうだ。

 プレーオフまで残り3週間を切っている。伊調は「難しい3週間になると思うが、やるからには心も体もいい状態で臨みたい。次が本当の勝負」と話す。五輪5連覇の偉業へコンディションを整え、天下分け目の大一番を迎える。