2020年東京五輪への道は見えたのか。女王対決で注目を集めたレスリングの全日本選手権(東京・駒沢体育館)女子57キロ級は、決勝(23日)で五輪4連覇の伊調馨(34=ALSOK)がリオ五輪63キロ級金メダルの川井梨紗子(24=ジャパンビバレッジ)に逆転勝ちし、3年ぶり13度目の優勝。劇的Vで完全復活を果たしたが、東京五輪で前人未到の5連覇達成へ向けてカギを握る今後の課題とは――。

 22日の1次リーグ初戦で川井梨に敗れた伊調は、決勝でも劣勢が続いた。1―2でリードされ、このまま試合終了かと思われたが、残り10秒で起死回生の片脚タックルを決めて大逆転。3―2で五輪女王対決を制し、劇的な復活優勝を飾った。

 日本レスリング協会の強化本部長だった栄和人氏(58)による伊調へのパワハラ問題が大騒動に発展。リオ五輪から2年のブランクを経て10月に復帰した。「レスリングがやれていることに幸せを感じる一年でした」と振り返った。

 来年6月の全日本選抜選手権でも優勝すれば世界選手権(来年9月、カザフスタン)代表となり、東京五輪代表に大きく前進する。その先の五輪5連覇も見えてくる一方で「これだけで安泰とは言えない」と明かしたのが、伊調が所属するALSOKの大橋正教監督(54)だ。

「昨日(22日)までが7割程度で、今日(23日)の(決勝の試合時間)6分は一瞬だけ昔に戻った。それは気迫だったり、彼女の持っている闘争本能だったんだと思う」

 決勝では全盛期と遜色ない動きを見せたが、それまでは“らしくない”失点をするなど精彩を欠く場面も見られた。大舞台だけではなく、全ての試合で安定した力を発揮できるようになるのはまだ先…という見立てだ。

 東京五輪では36歳となり、年齢面で懸念材料もある。「反応が遅くなったりは感じる。ただそれは年齢なのかもしれないし、ブランクなのかもしれない。分からないですね。こんな選手は見たことがない。(一般的には)34歳で世界王者(川井梨)に勝つことが奇跡ですから」(大橋監督)

 復帰した後の肉体は明らかに細くなっており、筋量を戻すことが今後の課題とされる。運動能力や体力面において伸びしろがあるのか、単に衰えたのかは今のところ未知数なのだ。もちろん、その段階で世界トップレベルに戻ってきたこと自体が脱帽ものの底力なのだが…。

 会場で観戦したブシロードクラブ監督で新日本プロレスのミスター・永田裕志(50)も「反射神経とかはともかく、体重調整や減量面だろうね。リカバリーを考えると(今年から導入された)当日計量も厳しくなってくるだろうし。年齢的な面ではそっちのほうが難しいかもしれない」と指摘。それでも「あそこで(タックルを)取れるのはさすが。4連覇はダテじゃないどころか、鳥肌が立ったよ。筋力がついてきたら5連覇はあり得る」と大きな期待を寄せた。

 来年は全日本選抜前に、海外遠征を予定している。伊調は「6月に向けて体力も技術も上げていけると思っています。感覚を戻した上で進化していきたい」ときっぱり。決して平坦な道のりではないが、前人未到の大偉業へ挑戦は続く。