最強女王は完全復活なるのか。レスリング女子で五輪4連覇を果たした伊調馨(34=ALSOK)が14日、全日本女子オープン選手権(静岡・三島)でリオデジャネイロ五輪以来約2年2か月ぶりの復帰を果たした。日本レスリング協会の強化本部長だった栄和人氏(58)から受けたパワハラによる大騒動を経て待望のマット帰還となったが、2020年に迫った東京五輪挑戦には口を閉ざした。いまだに女王を悩ませる問題とは――。

 57キロ級にエントリーした伊調は決勝を含む3試合すべてで貫禄のフォールとテクニカルフォール勝ち。12月の全日本選手権(東京・駒沢体育館)への出場権を自力で獲得した。

 ブランクを乗り越えての復活Vに最強女王は安堵の表情を浮かべた。ただ「完全復活」と呼ぶには早いという。「練習が足りないのかな、と。精神的にも肉体的にもまだまだこれから自信をつけていかないと、全日本選手権は厳しいかなと思います」と自己採点。残り2年を切った東京五輪にも「年齢も年齢ですし、生半可な気持ちでは目指せないのが五輪なので。東京で5連覇したいというものを心の底からつくらないといけない」と、目標として明言することさえしなかった。

 歯切れの悪さはいったいどこから来るのか。伊調は東京五輪を目指す上で、練習環境の充実が不可欠との見方を示した。今春から練習を再開した日体大では田南部力氏(43)の指導を受けているが、そのペースは週に数回程度で、リオ五輪当時と比較すれば激減した。

 その田南部氏は本紙の取材に応じ、日本レスリング協会との深刻な“連係不足”を訴えた。「『こういうサポートをお願いします』って一度言ったんですけど、全然動いていただけてない状態。マスコミ向けに『100%サポートしたい』と言ってる割には、何も話を聞かれないので。このままでは東京五輪は間に合わない? 僕は少なくともそう思ってます」

 田南部氏も伊調とともにパワハラ行為を受けた当事者だ。8月には協会の福田富昭会長(76)の謝罪を伊調が受け入れたことで騒動は収束に向かうかと思われたが、田南部氏は「僕らの中ではまだそういう扱いをされてる状況なので。ずっとパワハラが続いている状況。なかなか協会のサポートなしでは難しい」といまだに騒動が尾を引いている…との認識がある。両サイドの“溝”は埋まったとは言いがたい状況だ。

 一方で、田南部氏の指導が限定的になっている理由には、所属する警視庁のコーチから外れ、現在は日体大の外部コーチだからだという側面がある。協会としては他組織の人事に口出しできないため、この点においての解決策はない。協会は伊調の強化合宿(11月)参加について前向きな姿勢を見せており、西口茂樹強化本部長(53)は「僕らも全日本の1番、五輪のメダリストはサポートしてますよ。それと同じように、彼女にも同じことをしてあげたらいいんじゃないかなと思って話をして、提案させてもらってます」と現状を説明した。

 ともあれ、伊調がパワハラ騒動とそれによる「レスリングをすることは自分勝手なのか」という葛藤を乗り切り、新たな一歩を踏み出した意義は大きい。
「自問自答して、本当にレスリングをやりたいのか、やっぱりやりたいなっていうのが正直な気持ちで。挑戦しないと、それは自分の中で負けてるのかな」(伊調)

 果たして東京五輪で、国民栄誉賞も授与された最強女王の姿は見られるのか。残された時間は決して長くない。