レスリング女子で五輪4連覇の伊調馨(33=ALSOK)が、新たな一歩を踏み出した。前強化本部長の栄和人氏(57)からパワーハラスメント行為を受けていたと日本協会が認めて謝罪後、約1か月が経過した。内閣府公益認定等委員会もパワハラ行為を認定し、日本協会へ「報告要求」を行ったなか、最近になって体を動かし始めた伊調は13日、米国レスリング協会の要請により渡米。イメージチェンジした姿と声を本紙が独占キャッチした。渦中のレスリング女王の現状は――。
日本のスポーツ界を揺るがしたパワハラ問題発覚後、初めて伊調が姿を現した。最後に伊調が本紙に登場したのは、1月末のレスリング映画「ダンガル きっと、つよくなる」の日本協会関係者試写会。それから約4か月、空港を訪れた伊調はマスクをしていたものの、髪の毛をばっさりと切り、ショートカットに変化していた。帽子をかぶった姿はまるで少年のようだった。
この日は、米国レスリング協会の招待でニューヨークに向かった。複数の関係者の話を総合すると、17日に現地のシーポートディストリクトで行われる「Beat the Streets」に合わせ約1週間、米国に滞在する。「Beat――」は繁華街にレスリングマットを設置し、大勢の人の前で米国や世界のトップ選手が試合をする一大イベント。昨年には日本男子がタイムズスクエアで米国代表と試合を行い、今年の男子フリーでは米国とキューバの対抗戦が開催される。伊調は試合に出場しないものの、ゲストとしてイベント関連行事に招かれ、地元の若手選手を指導し、障がい者らとの交流会に参加する。
今月末には世界レスリング連合(UWW)の依頼を受け、レスリングが発展途上にあるグアムで普及、競技発展のため選手、指導者への指導を行う予定だ。昨年も女子の普及のため、イランに指導者向けのコーチングに出向き、汗を流した経験がある。
パワハラ問題が2月末に発覚し日本中に衝撃が走ると、伊調は都内の滞在先にこもり、一歩も外に出られない日々が続いた。4月6日、日本協会が委託した第三者委員会の調査で4件のパワハラが認定され、日本協会が謝罪。関係者からパワハラに関する告発状が提出されていた内閣府は4月末、日本協会に対して公益認定法に基づく「報告要求」を行った。伊調らトップ選手の練習環境の整備や支援、代表選考の透明化、パワハラの再発防止に向けた取り組みなどの報告を日本協会に求め、31日を期限としている。
問題解決へ一歩ずつ事態が進むなか、渦中にいる伊調も次第に体を動かし始めた。今回の渡航では指導が含まれるが、関係者によれば体力も戻ってきているという。もともと切りたかった髪の毛は、最近になってカットすることができた。
伊調自身は本紙の直撃に「ごめんなさい。今はあまりお話しすることができないのです」と言葉少なだったが、力強い足取りで「行ってきます」と搭乗ゲートに向かった。競技者としてマットに復帰するか否かは現時点では未定。それでも形はどうあれ、五輪女王が慣れ親しんだマットに戻りつつあるのは確かだ。