【オーストラリア・メルボルン16日発】テニスの4大大会初戦、全豪オープンが幕を開けた。世界ランキング5位・錦織圭(27=日清食品)は同45位アンドレイ・クズネツォフ(25=ロシア)とのシングルス1回戦で、苦しみながらも逆転勝ち。昨年はツアー優勝1回に終わったものの、自己最多の58勝を挙げる活躍を見せた。悲願の4大大会初Vを狙う今季、錦織が描く青写真とは何なのか。GAORAテニス中継解説者の佐藤武文氏(45)が、2017年の錦織を占った。
錦織の1年の試金石になる大会が開幕した。前哨戦のブリスベン国際で左臀部を痛めたものの、戦える状態に仕上げてきた。佐藤氏は錦織の2017年をこう読み解く。
「できるだけ早くマスターズで優勝して、前半から中盤に勝負していく。一番狙っているのは5~6月のフレンチ(全仏オープン)だと思います。2月にクレーを2大会増やした。クレー好きというのが表れている」
昨年に比べ、大きく変化したのが2月の試合スケジュール。5連覇のかかったハードコートのメンフィス・オープン、メキシコ・オープンに出場せず、クレーの南米2大会に出場することを選んだ。この決断に、錦織のクレーに対する自信が表れている。
全仏重視の理由はもう一つある。「(ノバク)ジョコビッチに勝つにはクレーじゃないかなと思っているんでしょう」(同)。4大大会を制するためには同1位アンディ・マリー(29=英国)と同2位ジョコビッチの壁を破らねばならない。ただ錦織にとって苦手意識があるのはマリーより、ジョコビッチ。昨年は6戦全敗だった。その難敵を攻略するチャンスが、最も高いのが全仏だ。
生涯グランドスラム制覇を達成したジョコビッチが、最後まで苦しんだのが全仏だった。対する錦織はクレーで新境地を開拓。昨年のイタリア国際では敗れたものの、フルセットの激闘を演じた。「アレが一番、ジョコビッチに近づきましたからね」(同)。十分な手応えが錦織に残っているというわけだ。
とすれば、全豪の位置づけはどうなるのか。優勝を狙うことに変わりはないが、佐藤氏は「2強のところまで行くのが最低条件」と力を込める。特にポイントになるのが、極限状態における必勝プレーの確立だ。
「ここだというポイントをジョコビッチとマリーは逃さない。(勝負どころで)ジョコビッチは深いボールをずっと打ち続ける。マリーは絶対ミスしないし、カウンターも打つ。でも、錦織選手にはそれが何かっていうのは見えてこない」
ATPの直近52週のアンダープレッシャー(プレッシャーに強い)ランキングでは1位ジョコビッチ、2位マリーで錦織は3位。しかし2強とのポイント差はあり、それがコート上でも明暗を分ける要因になっている。
ブレークポイントセーブ率、フルセットの勝率など4項目の数値を合わせた順位は、勝負強さのバロメーターだ。大事な場面でどんなプレーをするのか。メンタル面を含め、全豪で新たな成長を示すことが、今後を見据えた上でも必要になってくるという。
グランドスラムは2週間の長丁場。左臀部の負傷を受け、前半戦の相手は「長期戦に持っていこうという人たちが多い」と佐藤氏は予想する。4回戦は同17位ロジャー・フェデラー(35=スイス)と対戦する可能性が高いが、佐藤氏は「『死の組』みたいな感じで言われているけど、ここで負けてたらどうにもならない」。
錦織も同じ思いだろう。目指すのはマリー、ジョコビッチの2人。4大大会初Vへ、錦織の大勝負が始まった。
☆さとう・たけふみ=1971年2月20日生まれ。東京都出身。テニスの名門・亜細亜大では関東学生でダブルス2連覇、インカレダブルスベスト4、全日本選手権ダブルスベスト16。25歳で引退。現亜細亜大テニス部コーチ。スポーツチャンネル「GAORA」のATP、WTAのテレビ解説者。また自身のアパレルブランド「TOKYO UNDERGROUND TENNIS CLUB」のディレクター、デザイナーを兼務するなど幅広い活動を行っている。