【英国・ロンドン14日(日本時間15日)発】男子テニスのATPツアー・ファイナルでラウンドロビン(1次リーグ)A組の戦いがスタートし、世界ランキング5位の錦織圭(26=日清食品)は同3位スタン・バブリンカ(31=スイス)に6―2、6―3のストレートで圧勝した。攻守にプレーが安定し、9月の全米オープン準決勝のリベンジに成功。絶好調のエアKはカメラマン泣かせの“悪癖”も払拭し、2年ぶりの決勝トーナメント進出に大きく前進した。

 初戦で錦織が最高の立ち上がりを見せた。全米オープンで苦杯をなめさせられたバブリンカに見せ場すらつくらせない完勝劇。試合後「すごく良かった。出だしからプランを持ってプレーすることができた」と自画自賛するほどの内容だった。

 世界ランク1位アンディ・マリー(29=英国)、同7位マリン・チリッチ(28=クロアチア)を合わせた4人のうち、準決勝に進めるのは2人。1敗が命取りになる大一番で錦織がとった戦法は、本来の攻撃的テニスを貫くことだった。特に冴えたのがリターンだ。最近の試合ではベースラインの後方から打つことも多いが、この日はポジションを前に取り、早いタイミングで仕掛けた。持ち味のスピードを生かした展開が復活し、バブリンカのリズムを徹底的に狂わせた。第1セットを奪うと、全米では失速した第2セットも集中力をキープ。左ヒザにテーピングを巻くバブリンカを正確なストロークで振り回し、翻弄する。第5ゲームはゲームポイントを握られてから4連続ポイントを奪ってブレークに成功。バブリンカは両手を広げてお手上げのポーズだ。錦織がドロップショットを繰り出すと、もはやボールすら追えない。バブリンカが万全ではなかったとはいえ、最後まで錦織の独壇場だった。

 さらに試合を通じて光ったのは、はつらつとした表情だ。錦織はもともと感情が顔に出やすいタイプ。日本テニス協会幹部は「錦織は写真を見ただけで勝っている試合か負けているかが分かる。目の勢いが全く違う」と話す。実際、パンフレットなどで使用する写真はすべて「勝っている試合」だという。窮地に追い込まれたり、負け試合ではベテランのカメラマンでも、写真の選択に困るほどだ。

 しかし、この日はピンチの場面でも顔色に変化はなかった。第2セット第4ゲーム、初めてデュースに持ち込まれても慌てるそぶりはなく、逆に“眼力”でバブリンカを威圧。第1サーブの確率が全体で47%と低調だったにもかかわらず、世界ランク3位に反撃を許さなかった。

 メンタルの安定は勢いに乗っている証し。ファイナルには3年連続で出場の錦織も「コートは遅めなので自分に合っている。自分から攻撃できるように意識してやりたい」と手応えを口にした。残り2戦、気は全く抜けないものの、“死の組”とされたA組でまさかの全勝突破も狙える状況となった。