男子テニスの楽天ジャパン・オープン3日目(5日、東京・有明テニスの森公園)、世界ランキング5位の錦織圭(26=日清食品)は同34位ジョアン・ソウザ(27=ポルトガル)との2回戦で左臀部を痛めて途中棄権となった。優勝を義務づけられた凱旋大会の裏側で、日本のエースに何が起きたのか。国別対抗戦デビスカップ(デ杯)で日本代表監督を務め、錦織の体調を危惧していた日本テニス協会の植田実強化本部長(59)は本紙に無念の胸中を明かし、テニス界の根本的な改革を促した。

 3度目の優勝を狙った錦織の夢がついえた。第1セット4―3とリードした第8ゲーム途中で、まさかのギブアップ。“錦織効果”で超満員に膨れ上がった有明コロシアムが騒然とするなか、真っ先に席を立ったマイケル・チャン・コーチ(44)は足早にバックステージへと消えていった。

 すでに決勝が行われる9日までの前売り券は完売。錦織は左臀部の痛みに耐えながら懸命にボールを追ったが、体はついていかない。会見では期待を裏切った自責の念が込み上げ「大事なジャパン・オープンでリタイア。最悪の結果になってしまった。申し訳ないっていう気持ちもある」と謝罪した。

 錦織は「徐々に痛みがきたわけではなく(第3ゲームの)最後のショットで(急に)痛めてしまった。それだけが心配です」と顔を曇らせた。突発的なアクシデントを強調し、言い訳はしなかった。

 ただ、故障の原因はいくつか思い当たる。テレビ解説で訪れていた松岡修造氏(48)は錦織の動きが序盤からハイペースだったことを指摘し「左臀部は最も選手が痛めるところ。今後のツアーを考えるとやめてよかった」と話した。さらに最も影響が懸念されるのはリオ五輪から続いた夏のハードな日程だ。

 錦織は五輪後、休む間もなく、全米オープン、デ杯ワールドグループ入れ替え戦(大阪)と連戦した。五輪、デ杯で指揮を執った植田氏は「この夏のスケジュールの過密化は選手になんらかの故障を起こしてもおかしくない」とやりきれない表情を浮かべた。

 デ杯で錦織をシングルスではなく、ダブルスにのみに起用したのも、錦織の疲労蓄積を考慮してのことで、植田氏は「絶対行くべきではない、とボクの中では思いました。無理することでケガするんじゃないかという不安ですよね。極力、負担を減らせられるデ杯にしたいというのがあった」。スタッフとも何度も話し合いを重ねたという。

 それでも起こってしまった不測の事態に、植田氏の危機感は強い。錦織だけではなく、リオ五輪金メダルの世界ランク2位アンディ・マリー(29=英国)や銀メダルの同66位フアンマルティン・デルポトロ(28=アルゼンチン)も同じ日程を経て、故障に苦しんでいる。五輪、全米は難しいものの、デ杯については日程とセット数を減らすなどのルールの両面で「選手が出やすいものにしていく必要がある」と改革の必要性があることを訴えた。

 五輪後、多くのメダリストが授賞式やイベントに出席して競技から離れる中で、テニス選手の過酷さは群を抜く。選手寿命を縮めないためにも、なんらかの見直しが必要な時期にきていることは間違いない。