【ニューヨーク7日(日本時間8日)発】執念の大逆転だ! テニスの全米オープン男子シングルス準々決勝で世界ランキング7位の錦織圭(26=日清食品)は同2位のアンディ・マリー(29=英国)を1―6、6―4、4―6、6―1、7―5の3時間57分、フルセットの死闘の末に下し、2年ぶりの4強進出を果たした。最強の相手をスーパープレー連発で粉砕。リオデジャネイロ五輪のリベンジも成し遂げ、4大大会初制覇に大きな弾みをつけた。

 スタンディングオベーションが鳴りやまなかった。準優勝した2014年以来、2年ぶりに立ったセンターコートのアーサー・アッシュ・スタジアムで優勝候補筆頭のマリーを撃破。「ここにはいい思い出があるんです。自分の大好きなグランドスラム。準決勝まで残れて幸せです」。両腕高く突き上げた錦織は会心の笑みを見せた。

 マリーには過去1勝7敗と大きく負け越し。直近のリオ五輪準決勝でもストレートで完敗した。勝ったマリーがロンドン五輪に続く金メダル、錦織が銅メダルと明暗は分かれた。序盤は五輪の悪夢を引きずるかのような展開となる。錦織は第2サーブを狙われる。マリーのリターンは会場がどよめくほど強烈だ。

 調子が上向いたのは第2セットに入ってから。3―3で迎えた第7ゲーム途中、突然の降雨で試合は中断したが、これが“恵みの雨”となる。会場には今年から屋根がつけられ、閉じられるまで時間がかかった。その間、錦織はバックステージに戻り、マイケル・チャン・コーチ(44)と話し合うことができた。「コーチが助けてくれた。戦略を少し変えたのがよかった」

 第3セットは奪われたが、集中力は切れなかった。さらに“運”も味方につける。第4セット第3ゲーム、ブレークポイントを握られた錦織は、ラリー戦でやや劣勢となる。ところが、その最中に、会場に「バーン」という爆音が響く。音響のノイズと思われ、主審はラリーの中断を命じた。結局、このゲームは錦織がキープ。主審に猛抗議したマリーは、明らかに平静を失った。

 続くゲームを、錦織はブレーク。爆音は第6ゲームにもとどろき、マリーは完全に“乱心”。錦織は再びマリーのサービスゲームを撃破する。マリーはこのセット、第1サーブの確率が39%まで急降下した。

 勝負は最終セットにもつれ込んだ。第1ゲームをブレークした錦織は第4ゲームをブレークバックされ、ラケットを放り投げる。だが、この日は諦めない。第5ゲーム、15―40から猛攻を浴びせると、マリーは痛恨のダブルフォールトだ。錦織はダウン・ザ・ラインで決定的なブレークを奪った。それでも、勝負は終わらない。マリーもしぶとい。第8ゲーム、錦織はめったに見せないサーブ&ボレーに失敗し、ブレークバックされる。

「本心はかなり落ち込んでいたけど、反省は試合の後にして、できることをがんばろうと思って」。勝負どころで前を向いた錦織は5―5で迎えた第11ゲーム、マリーが懸命に手を伸ばした返球に食らいついて再びブレーク。会心の一撃に会場は大興奮。マリーはラケットをネットに叩きつけた。限界に近づいた体力の消耗戦、壮絶な魂の削り合い。それを制したのは錦織だった。

「2、3セット目からどんどん打っていけた。長いラリーもなるべく耐えるようにプレーするように心がけた」と勝因を明かした錦織。準決勝はリオ五輪銀メダルの同142位フアンマルティン・デルポトロ(27=アルゼンチン)を破った同3位スタン・バブリンカ(31=スイス)と激突する。大きな山を越え、全米初制覇に一直線だ。