【英国・ロンドン発】男子テニスの年間成績上位8人で争うATPツアー・ファイナルのラウンドロビン(1次リーグ)A組第3戦(19日=日本時間20日)で世界ランキング8位の錦織圭(25=日清食品)は同3位ロジャー・フェデラー(34=スイス)に5―7、6―4、4―6のフルセットの死闘の末に敗れ、2年連続のベスト4進出を逃した。今季は浮き沈みが激しかったが、これで公式戦を終了。その評価はどうなのか? GAORAテニス中継解説者の佐藤武文氏(44)に聞いた。

 2時間10分の死闘だった。第1セットを失ったが、第2セットから逆襲。第2戦で世界ランク1位のノバク・ジョコビッチ(28=セルビア)にストレート勝ちしたフェデラーから今大会初めてセットを奪う。

 第3セットも先にブレークをされた後、一度は試合を振り出しに戻し、必死の形相で食らいついた。最後はフェデラーの底力の前に力尽きたが、ここ最近の錦織とは別人のような動きと集中力で躍動してみせた。

 これで、錦織は今季の公式戦が終了。だが、気になるのはその評価だ。前半戦でツアー3勝を挙げるなど安定した戦いぶりを見せたが、8月の全米オープン初戦敗退後はスランプに突入。苦戦が続き、勝負への執着心が薄れたのではという声まで上がった。

 今大会、第2戦後に錦織にインタビューした佐藤氏は、来季への収穫と課題が見えた一年だったと結論づけた。

 まず収穫は「復調」。全米前、佐藤氏は錦織にある変化を感じた。「ウイナー(決定打)をバンバン取っていた。テニスがいい感じに変わったなと思いました」。だが、その反動で、本来の持ち味が薄れてしまったのが不調の一つの要因だという。例えば、錦織の長所だったドロップショットはミスが増えた。「緩急をつけるのがストロングポイントだったのに、緩急の『急』ばかり多めに打っていた」

 しかし、そうした負のスパイラルを断ち切ったのがこの日のフェデラー戦だった。「最後に忘れかけたものを取り戻したような気がする。錦織選手は全米で負けた後、(決勝に進出した)フェデラーの試合を見て『やっぱりフェデラーってすごいな』って思ったらしいんですよね。尊敬している選手との試合で、テニス小僧というか、テニスボーイになって、またテニスを楽しんでいた。何か吹っ切れた」

 この日、錦織はドロップショットやダウン・ザ・ラインなど、多彩なプレーを随所に披露。マイケル・チャン氏(43)をコーチに迎え「勝てない相手はいない」とメンタルを強化したが、憧れのレジェンドと1年ぶりに対峙することで、原点に戻った。「相手を止めてしっかりウイナーを打つっていうことが全米以降できなかったのが、できていた。そこがものすごく大きい」

 一方、課題は「勝負どころで勝ち切る力」だ。この日もブレークポイントを制した確率は6分の6のフェデラーに対し、12分の5と半分以下。佐藤氏は「まだ取りきれていない」。サービスも改善が必要と指摘した。

 ただ、フェデラーと熱戦を繰り広げたことが課題との向き合い方においてもプラスに作用するという。「悔しさはあると思うんですけど、やらなきゃいけないことに素直に取り組めると思う」と佐藤氏は期待した。

 来季こそ悲願の4大大会制覇なるか。