ガット職人が明かす“エアK”錦織の変化と素顔

2015年07月01日 06時00分

世界で活躍する細谷氏

 テニスのウィンブルドン選手権(英国)が6月29日に開幕し、男子の世界ランキング5位・錦織圭(25=日清食品)はシングルス1回戦で同55位シモーネ・ボレリ(29=イタリア)に6―3、6―7(4―7)、6―2、3―6、6―3のフルセットで勝ち、2回戦に進出した。左ふくらはぎの負傷の影響もあって苦戦したが、執念で4大大会初制覇に望みをつないだ。そんな錦織を強力に後押しするのが、ストリンガー(ガット職人)を務める細谷理氏(45)だ。本紙直撃に細谷氏が明かしたエアKの変化と素顔は――。

 ――錦織との出会い

 細谷氏:プロデビュー直前に中国の大会があったんです。その時、初めて話をしました。試合後「今後、プロになるんだったら、もうちょっと多めにラケットを準備したほうがいいよ」とアドバイスしました。通常は2~3本出すと思うんですけど、1本しか出さなかったんですよね。相手の選手は当時世界ランク上位の選手で、圭はぺーぺー。だけど、相手の選手は準備の仕方もトップなんですよ。そういう姿勢を学んでほしかった。

 ――今はどのくらい

 細谷:グランドスラムなら7~8本ぐらいは用意していますね。3セットの試合なら5~6本は用意している。普通よりちょっと多いです。感覚的にちょっと合う合わないがあると、すぐラケットを替えたりします。

 ――ウィンブルドンが開幕

 細谷:ケガしちゃったけど、万全だったら、ボクは優勝するチャンスがあると思うんですよ。サーブが速い選手が有利と言われてますけど、芝は雨などでコンディションが変わる。彼が得意とするボールの飛び方になれば有利です。

 ――心強い予想だ

 細谷:過去に彼に似たプレースタイルのアンドレ・アガシが優勝したことがある。身長も180センチくらいしかないけど、上からバンバンひっぱたいてコートの内側に入り込んで左右に散らして打つという打ち方がすごく似ているんですね。アガシが引退した後、圭は「アガシ2世」と言われている時期もあった。実際、ボクが見ててもそんな気がする。アガシが4大大会で初めて優勝したのはウィンブルドン。それになぞらえてというか、直感で思います。

 ――年々、活躍する姿は感慨深いのでは

 細谷:毎回会うたびに進化している。最近思うのは、球が速くなったのと、スイングスピードも上がっている気がしますね。ボールの打球音が違ってきた。単純に言うと、サーブを打つ時のほうが力が入るから音が強いんですけど、そのような音がストロークで聞ける。それぐらいパワーアップしている。次元が違ってきている。昔はセンターコートや観客がいっぱい入るコートだと緊張してたみたいですけど、最近は慣れてきました。

 ――ストリングに対する要求も変わった

 細谷:細かくなりましたね。試合の内容が良かったのに「もうちょっと欲を言えば、気持ち(張り具合が)かたかったほうがいい」とか「ちょっと弱かったほうがいい」とかそういう言い方をする時がある。ただ、それを言う時はだいたい調子がいいです。もっと欲が出るんでしょうね。

 ――人間的には

 細谷:オンの時は何を言っても聞いてない。話しかけないほうがいい。危ないです。殺気立っています。試合の直前に、集中している時にうかつに声かけて「オウ、がんばれよ」と言っても聞いてない。「ギロッ」てにらまれたりします。お母さんたちも「試合の時は集中しているから、別人のようになっちゃう」と言ってましたね。

 ――コート外では

 細谷:のんびりしてますね。オンとオフが違いすぎるというか…。朝弱いし、眠そうな顔して会場入りしてきます。寝癖をつくって、あんまり強そうに見えない。天然ボケみたいなところもある。ラケットを張り替えに出して、出したの忘れて右往左往してる時があった。憎めないですね。

 細谷氏は全米オープン、全豪オープン、3月のマイアミ・オープンの3大会でツアーストリンガーを請け負っている。卓越した技術は世界で高く評価されており、オフィシャルな仕事のため何人もの選手のガット張りを任せられることも。「一日何十本になる。ずっと張り続けることもありましたよ」とかなり過酷な仕事だ。国内では楽天ジャパン・オープンで錦織と“最強タッグ”を結成する。「そこはほぼ個人的にマンツーマン。彼だけを見ている」

☆ほそや・ただし=1969年11月25日生まれ。神奈川県出身。高校時代は硬式テニス部に所属。2001年から全米オープンなどのツアー大会で公式ストリンガーを務める。プロ転向後の錦織のストリンガーを8年間にわたり担当。10年にテニスショップ「オンコート ラケット!」を茅ヶ崎にオープン。中高生のころはプロレスに熱中し、故ジャイアント馬場さんのファン。