革命成就へ――。男子テニスの錦織圭(25=日清食品)が全仏オープン(24日開幕)でいよいよ4大大会初Vを目指す。昨季クレー(赤土)コートで大活躍した錦織だが、立ちはだかるのは、全仏5連覇中で通算9度の優勝を誇るラファエル・ナダル(28=スペイン)をはじめとする猛者たち。果たして勝算はあるのか。GAORAテニス中継解説者の佐藤武文氏(44)は錦織のクレーでの戦いぶりを「革命を起こした」と表現した上で、展望を語った。

 昨年、錦織選手はバルセロナ・オープンで優勝し、マドリード・オープンは決勝で棄権はしたものの、途中までナダルを追い詰めました。クレーコートでの戦いはベースラインより後ろ側で打つのが基本です。ナダルはリターンでもかなり後方からプレーする。それが「キング・オブ・クレー」と言われている王道のプレーなんですよ。

 ところが、錦織選手はベースラインの上で、できるだけ下がらないでプレーすることをやり始めた。ハードコートと同じプレーをクレーコートでやりだし、それが機能しだした。ちょっとしたクレーコートでの「革命」を起こしたんです。マドリードでは負けてしまいましたけど、面白いくらいハードコート的なテニスをしてナダルと対峙できた。それが躍進した大きな要因ですね。

 2年前はもっと下がってプレーしていました。彼も一般的なクレーコートの戦い方はこうと考えていたんです。スタイルが変化したきっかけは、史上最年少で全仏を制したマイケル・チャン・コーチ(43)の教えもあります。チャンは錦織選手に「下がるな!」と指導していたんです。ただ、錦織選手がすごいのはそれをハードコートだけではなく、クレーコートでもやってみた。そして、それが見事にハマった。去年のバルセロナ、マドリード以降、クレーコートの戦い方の概念が変わり、そういったプレーをする選手が増えています。

 錦織選手はこの戦い方に自信を持っています。普通に考えれば、ものすごいリスクがあるんですよ。クレーコートの特徴はボールがバウンドする時にイレギュラーする。ハードコートみたいに均一にバウンドするわけではありません。変化したバウンドに対応しづらいので、ボールが頂点に達した時、もしくは落ちてきた時にヒットする。だからポジションが後ろに下がるのが一般的な戦い方なんです。

 イレギュラーするかもしれないのに、ポジションを前にして早いタイミングで打つ。でもそれを彼はやってのけているんです。ボールの予測、読みが人より優れている証しですね。前衛的に攻めることで相手はリズムが狂います。錦織選手は相手の時間を奪い、無理をさせることができる。これは全仏で大きな武器になります。

 また錦織選手はサーブ&ボレーやドロップショットなどのネットプレーを昨年以上に多用してくることが予想できます。今季のハードコートの戦いぶりでも、大事な局面でネットプレーをする機会が増えました。クリエーティブな攻めは相手からさらに時間を奪います。彼のショットは正確です。また相手をコートの外に追い出したり、相手を追い詰めている状況を作り出すことができる。だから足元が滑りやすいクレーコートでネットプレーができるんです。

ロジャー・フェデラー(33=スイス)もサーブ&ボレーを試みたりしてナダルに挑んでもローランギャロス(全仏)では勝ったことがない。それほど攻略は難しいんです。ただ、錦織選手はマドリードでナダル超えまであと一歩のところに迫った。錦織選手がネットプレー&攻撃的プレーをクレーコートでやって、どこまでできるのかは、日本だけじゃなく、世界のテニス関係者が期待していると思います。

 ナダルは強いし、錦織選手にとってはノバク・ジョコビッチ(27=セルビア)も嫌な相手です。しかし彼の持ち味であるテニスができれば、ベスト4まではいけると思います。

☆にしこり・けい=1989年12月29日生まれ。島根県出身。5歳からテニスを始め2001年に全日本ジュニア選手権など3大会を制覇し、松岡修造氏が主催する「修造チャレンジ」にも参加。03年にIMGアカデミー(米国)入り。07年にツアーシングルス初出場。08年にデルレイビーチ国際でツアー初優勝。11年10月には世界ランキング30位となり、松岡氏が持つ日本人記録の世界46位を更新。13年12月にマイケル・チャン・コーチに師事すると、大躍進。14年8月の全米オープンでは準優勝。現在の世界ランクは5位。178センチ、74キロ。

☆さとう・たけふみ=1971年2月20日生まれ。東京都出身。名門亜細亜大では関東学生でダブルス2連覇、インカレダブルスベスト4、全日本選手権ダブルスベスト16。25歳で現役引退し、現在は澤柳璃子(ミキハウス)のツアーコーチを務める。亜細亜大硬式庭球部コーチ。スポーツチャンネル「GAORA」のATP、WTAのテレビ解説者。また自身のアパレルブランド「TOKYO UNDERGROUND TENNIS CLUB」のディレクター、デザイナーを兼務するなど幅広い活動を行っている。