10日に行われたテニスのブリスベン国際(オーストラリア)男子シングルス準決勝で、世界ランキング5位の錦織圭(25=日清食品)は同8位ミロシュ・ラオニッチ(24=カナダ)に7―6、6―7、6―7で逆転負けを喫した。ダブルスでは11日の決勝戦に出場。4大大会初制覇の期待がかかる全豪オープン(19日開幕)に明るい兆しは見えたのか。「GAORA」テニス中継解説者の佐藤武文氏(43)が今季の“エアK”を占った。

 過去5度対戦し、4勝1敗と“カモ”にしていた相手に錦織がまさかの黒星を喫した。ラオニッチは時速230キロを超える自慢のサーブが大爆発。エースは実に34本を記録し、錦織は食らいつくのがやっとだった。

 ラオニッチの集中力は最後まで衰えず、錦織の粘りも通じない。「(相手の)ミスを待ってしまった。ラリーが少なくてリズムが生まれにくい。自信が持ちにくかった」。優勝すれば達成できた世界ランク4位の夢も消え悔しさをかみしめた。

 今大会は目前に迫る全豪へのステップ。この結果はどうつながるのか。佐藤氏は「前哨戦でベスト4までいけたのは、チーム陣営としてはいいこと。全豪に向けて調子を上げていくと思う」と明るい見通しを示した。

 根拠はある。勝負強さに定評がある錦織とはいえ、この日はラオニッチのサーブが良すぎたという。「錦織選手はセカンドサーブでポイントを取ることが必須なんですけど、リターンができポイントを取った確率は42%だった。5割リターンできないとプレッシャーがかけられない」。ラオニッチのサーブは2本目も好調で、さすがの錦織も持ち味を封じられた。

 一方で、佐藤氏は錦織の成長ぶりにも目を細める。準々決勝の同53位バーナード・トミック(22=オーストラリア)戦では昨季と異なる“変化”が見られたという。

「(錦織は)相手を動かさないうまさがある。構えが早ければ、相手はどちらにボールが来るか読みづらくなり、動けない。それを準々決勝で見せてくれた。自信からくるプレーの進化でしょうね」。試合中の構えがスピードアップしたため、相手はボールの軌道を予測できず瞬間的に固まってしまうという。「以前は(構えが遅かったため)何回も繰り返さなきゃいけなかった。それが一撃で、ためて決める」(同)。まさに錦織流の“瞬間金縛り”とも言える高度なテクニックだ。

 目標はあくまでも全豪オープン制覇。ハードな戦いの連続となる大一番に向け、ここで決勝に進めなかったことを悲観する必要はない。佐藤氏は「逆に言うと、(決勝進出なら)あと1試合しなければいけなかった。ポジティブな捉え方もできる」。スタミナを温存し、英気を養えるメリットは大きい。

 錦織自身も敗れはしたものの、手応えをつかんでいる。「サーブはより自信を持っていけると思う。敗戦で学べることもある。いい準備ができた」。全豪に向け、修正点も把握した。前を向いた錦織に、日本人初の偉業への道が開けている。