今しかない。男子テニスの世界ランキング5位・錦織圭(24=日清食品)の活躍を受け、日本テニス協会が大改革に乗り出すことになった。2020年東京五輪の成功に向け選手のみならず、コーチを海外に派遣していく。錦織が全身全霊でともした火を、無駄にはしない構え。“エアK”効果が日本のテニス界を大きく変えそうだ。

 全米オープン準優勝、ATPツアー・ファイナルベスト4など強烈なインパクトを残した錦織が新たな風を吹かせる。

 今季を総括した植田実強化本部長(57)は「今までと違ったステージで考えていかないといけない」と前置きした上で、日本の指導者に変化が必要と指摘。「指導者のレベルが世界レベルになる必要がある。指導者が海外で修業を積まないといけない。それがまだ十分ではない」と話し、コーチの“輸出”を積極的に進める考えを表明した。

 13歳から渡米した錦織が成功モデルになり、海外に出る選手は今後も増えるだろう。テニスの本場は日本ではなく欧州や米国。言葉も通じない荒波の中でもまれて初めて成長を実感できることは錦織も口にしている。

 しかし、植田氏はそれだけでは日本全体のレベルアップにはつながらないという。6年後には東京五輪を控えている。「これから2020年に向けてのコーチ教育が問われる」。選手としての実績では外国人コーチに太刀打ちできないが、植田氏が強調するのは日本人ならではの長所だ。

「日本人はコーチとしての資質は絶対高いと思っている。信頼性であったり、あまり表に出ていかない選手を支えることに徹したり、美徳としてみんな携えている」

 プロスポーツ界では日本人の指導者が海外で成功するケースは少ない。サッカーや野球でも海外で脚光を浴びているのは選手だけだ。「サッカーでも岡田(武史=元日本代表監督)さんが中国に行って(2012年、日本人初の中国プロサッカーリーグ監督に就任)、そう簡単にはいかなくてまた戻ってきている」。道のりは険しいが、植田氏はテニスが風穴を開けるという。

 すべては未来のため。「子供たちはみんな錦織みたいになりたい。それには指導者が夢を受け取るアンテナを持っていないと。錦織の頑張りで確信した」。錦織がまいた種を実らせるのは協会の役目。その動きはすでに始まっている。