テニスの年間成績上位8人のみが参加できるATPツアー・ファイナル(英国・ロンドン)で、男子シングルスの世界ランキング5位の錦織圭(24=日清食品)は準決勝(15日)で同1位のノバク・ジョコビッチ(27=セルビア)に敗れた。夢舞台での快挙達成とはいかなかったが、全米オープン準優勝を含め大躍進の1年が日本テニス界にもたらした影響は絶大。そこには“第2の錦織”誕生に向けた3つの道しるべが示された。

 アジア人初出場となったファイナルで旋風を巻き起こした錦織は、世界ナンバーワンをあと一歩のところまで追い詰めた。フルセットの死闘の末に惜敗したが、意地の1セットを奪取。男子テニス界に強烈なインパクトを残した。

 これで今季のツアーは終了。年間獲得賞金総額443万1363ドル(約5億1500万円)はキャリアハイとなり、名実ともに世界のトップ選手の仲間入りを果たした。今後は近日中に帰国し、22日に開催される「ドリームテニスARIAKE」(東京・有明コロシアム)では4大大会8勝のアンドレ・アガシ氏(44=米国)とエキシビションマッチで“夢対決”。他にも複数のイベント参加が予定されている。

 日本テニス界に対しても、今年1年でとてつもない財産を残した。178センチ、74キロの錦織が屈強な外国人選手を次々と撃破。日本テニス協会幹部によると、錦織は日本人が目指すべき究極のスタイルを体現しているという。

「とにかく立ち位置が前で、早いタイミングで打っている」ことが第一のポイント。ベースラインから離れた外でプレーすれば相手にも時間を与え、ラリーでも主導権を握れない。だが、勇気を持ってポジションを前に置き、相手を前後左右に揺さぶる形で突破口を開いた。「みんな体が大きいから機敏に動けない。日本のテニスがこれからどんどんこうなっていくかもしれない」(同幹部)

 そのためには高度な反射神経に加え“壊れない肉体”が求められる。「前に立ってプレーするのは難しい。動きもスイングスピードも早くないとできない。錦織は相当トレーニングをしてきている。よく彼はシャツで顔を拭くんですけど、体がたくましくなっているように見える。今までの3倍くらいは強い」(同)。実際、今季の錦織は試合中に治療を要求する「メディカルタイムアウト」の回数が減った。継続的な鍛錬によって、屈強な肉体を手に入れた。

 さらに錦織は「選手とコーチ」という関係も開拓した。今季から元全仏王者マイケル・チャン・コーチ(42)の指導で才能が一気に開花したが、最近のテニス界は、現役時に実績を残した元選手をコーチにつけるのがトレンド。アンディ・マリー(27=英国)が元女子世界ランク1位のアメリ・モレスモ(35)に師事しているように、実績があれば性別は度外視だ。

 日本テニス界は今年、アジア大会男子シングルスで西岡良仁(19=ヨネックス)が40年ぶりの金メダルを獲得。「日本人の能力はかなり高い。アジアでも、グランドスラムに出るような選手がいっぱいいる時代」(植田実強化本部長)となっただけに、今後は有力コーチが続々と日本人の“金の卵”育成に乗り出す、という流れもできた。

 錦織は歴史に残る金字塔を打ち立てた。そのわだちはまばゆく照らされている。