アスリートにとって「30歳」は肉体の転換期。その節目を迎える男子テニスの世界ランキング13位、錦織圭(29=日清食品)が先ごろ大きな決断を下した。9年間にわたってコーチを受けたダンテ・ボッティーニ氏(40)と契約解除し、来季から男子ダブルス元世界1位のマックス・ミルヌイ氏(42)を新コーチに迎えたのだ。

 その理由を錦織は「僕が小さいころから一緒に練習していた」「自分のプレースタイルと似ている」と語り、「ビースト」の愛称を持つ同コーチを「真面目で情熱があって理想的な先輩。自分の考えを押しつけず選手に合わせられる」と絶賛。だが、最も大きな要因は30歳を直前にした心の変化だ。5月の全仏オープンで故障した右ヒジの痛みと闘っていた今年夏ごろ、錦織にある考えが浮かんだ。「違う意見を取り入れていいんじゃないか、と。新しい声を一番欲していました。もうワンステップ上に行きたいと思って」。現状維持ではなく、あえて別の道へと踏み出して可能性を探った。

 世界のトップを夢見た20代はテニスを「義務」と感じていたが、5年前から「楽しい」に変わったという。この変化について「たぶん自分で伸びしろを感じられているので楽しいんだと思う」と自己分析する。

 29日には30歳になる。その心境を「体の衰えとか、テニスに関してはあんまり変わらないですよ」と語ったが、すぐに「でも、ちょっと嫌な感じはありますけどね」とおどけて付け加えた。

 右ヒジは快方に向かっており、今年中にボールを打つ練習を開始予定。もちろん来年の目標は東京五輪だ。「昔は自分のためにやっていた。でも今は国のために戦うのも、またいい自分のモチベーションだと思える」。あらゆる面で成長し、年を重ねるごとに“エアK”は進化していく。