新女王は復活できるのか? 女子テニスの大坂なおみ(21=日清食品)が1月28日から死守してきた世界ランキング1位の座から陥落することが23日、決定した。ネイチャーバレー・クラシック(英バーミンガム)を制した同2位アシュリー・バーティ(23=オーストラリア)がポイントで上回り、24日付世界ランクで1位に浮上。大坂は4大大会のウィンブルドン選手権(7月1日開幕、ロンドン)を前に痛い2位転落となったが、専門家の見解では意外にも「好都合」だという。

 今年1月の全豪オープンで4大大会2連勝を飾った大坂は、同28日にアジア人として初めて世界の頂点に立った。だが、ここからが苦境の連続。サーシャ・バイン・コーチ(34)との契約解除を“起点”にトーナメント序盤で敗退する日々が続き、イライラを爆発させるシーンも目立った。苦しみながらも約5か月間にわたって“薄氷の1位”を死守してきたが、ネイチャーバレー・クラシックでは2回戦敗退。優勝した世界2位バーティにポイントで逆転され、ついに天下を明け渡すことになった。

 大事なウィンブルドン選手権の前に暗雲が垂れ込めた格好だが、DAZNテニス中継解説者の佐藤武文氏(47)は「今の大坂選手にとっては、このほうがいいです」と意外な見解を示した。どういうことか。

「口では『1位を意識しない』と言っていましたが、相当の重圧があったはず。最近は力でねじ伏せようとするプレーも顕著に出ていましたから」(佐藤氏)

 先の4大大会、全仏オープンでは難局を無理やり強打で打開しようとネットに引っかけるプレーが続出。明らかに焦りがあった。原因は「1位らしくしなければいけない」というこだわりだったが、佐藤氏は「2位じゃダメですか?」と、かつてどこかの政治家が放ったひと言を投げかける。
「今はむしろ2位から出直したほうがいいプレーができるでしょう。肩の荷が下り、逆にチャレンジャーとしてパフォーマンスするほうが大坂選手に合っていると思います」

 重圧からの解放がプラスに働くことはあり、男子で4大大会通算20勝のレジェンド、ロジャー・フェデラー(37=スイス)でさえ「僕が注目されない全仏オープンではのびのびプレーできて心地いい」と漏らしている。クレー(赤土)コートの全仏では無類の強さを誇るラファエル・ナダル(33=スペイン)が一身に注目を集めるからだが、大坂も2位転落で少しでもプレッシャーを減らすことになればのびのびプレーできるだろう。

 好材料はまだある。女子ツアーを統括するWTAが現行のランキング制を採用した1975年以降、世界1位はバーティが27人目。その中で初戴冠の1位の座を20週以上も守ったのは大坂を含めて9人(21週の大坂は歴代7位)。そのメンツはマルチナ・ナブラチロワ、シュテフィ・グラフ、モニカ・セレシュ、マルチナ・ヒンギス、セリーナ・ウィリアムズらスーパースターばかり。その全員が1位陥落後も再び1位に戻っており、なんと「返り咲き率」は100%だ。

 さらに8人中の7人が1位陥落後に4大大会を制覇。初1位を20週以上も続けただけに“一発屋”は存在しないと言える。その後も輝きを失わない活躍を見せており、今後に本格的な「大坂時代」が到来する可能性は十分ある。

 ネイチャーバレー・クラシックでは罰金覚悟で記者会見を拒否するなど、メンタル面の課題は変わらない。2位からの出直しで気分一新となり、状況を好転させたいところだが、果たして…。

【新女王・バーティは「天才」】新たに1位に君臨するバーティは、2011年のウィンブルドン選手権ジュニアを14歳で制して「天才」の名をほしいままにした。オーストラリア出身のため、全豪オープン前には毎年のようにテレビCMやイベントなどメディアに引っ張りダコ。周囲の期待と好奇の視線に押し潰されて嫌気が差し、19歳の時(15年)にテニスを辞めることになる。

 そこでバーティはクリケット選手に転身した。この間に気分一新して精神的な疲労が取れたのか、16年にカムバックすると「もともとスライスがうまかったですが、復帰してメッチャ強くなりました」(佐藤氏)とまさかのパワーアップに成功した。先の全仏オープンでは圧巻のプレーを披露し、4大大会初制覇を成し遂げる見事なV字回復を見せた。

 苦難を乗り越えてきただけに精神的にもタフ。1位返り咲きを狙う大坂の前に、今後も最強ライバルとして立ちはだかりそうだ。