【フランス・パリ4日(日本時間5日)発】やはり王者の壁は厚かった。テニスの4大大会で唯一のクレー(赤土)コートで争われる全仏オープンの男子シングルス準々決勝で、世界ランキング7位の錦織圭(29=日清食品)が全仏11回Vを誇る“赤土の絶対王者”ラファエル・ナダル(33=スペイン)に1―6、1―6、3―6のストレートで完敗を喫し、初の4強入りはならなかった。4回戦まで劇的な勝ち上がりを見せてきたが、万全のコンディションではない中で“奇跡”は起こらず。1月の全豪と同じような結末で、4大大会制覇の道のりの遠さを痛感させられた。

 クレー史上最強のナダルに対し、日本のエースはここまで13時間22分を戦い体力的にも劣勢。試合前から「勝つのは奇跡」とさえ言われた。3、4回戦を大逆転で勝ち上がった錦織のミラクルを夢見るファンもいたが、フタを開けると予想通り…いや、想像以上の惨敗だった。

 赤土を知り尽くした王者の強く正確なストロークに動かされた錦織は全く自分のテニスができず、わずか34分で第1セットを落とした。ナダルのスピンの利いたショットが次々に決まり、なす術なし。第3セット途中で約1時間の中断もあったが流れを変えられず、押し切られた。錦織がポイントを取るたびに拍手喝采となった会場の雰囲気が、2人の差を如実に物語っていた。

 岩渕聡・デビス杯日本代表監督(43)は「4大大会でベスト8に安定して入っているのはポジティブなこと」と評価しつつも「ただ、優勝するには1週目の勝ち上がり方が問われる。優勝する選手はそこが違うと改めて感じた」と分析。男子プロテニス協会(ATP)の公式サイトも「錦織は4大大会ではいつも準々決勝で行き詰まる」と体力消耗の問題が解消されていないことを指摘し「いいプレーができずにいら立っていた」との見解を出した。

 とはいえ、ナダルの赤土での強さが怪物級であることも改めて見せつけられた。クレーコート育ちとはいえ全仏オープンではなんと通算91勝2敗、勝率9割7分8厘! 他のプロスポーツを見渡しても、ここまで圧倒的な数字を残す選手はいないだろう。GAORAテニス中継解説者の佐藤武文氏(47)は「天候によって硬さが変化するコートを計算して打つ。クレーの特性を生かして滑りながら打つスライドテクニックは世界一。何より勝ち続けることで相手を意気消沈させる」と分析。実際、錦織もナダル戦を前に思わず「きついですね」と漏らしたほどだ。

 ただ、次の4大大会は芝のウィンブルドン選手権(7月1日開幕、英ロンドン)。錦織は昨年大会でベスト8入りしただけに、ここは「相手がナダルだったから…」と切り替えて次のサーフェス(コートの表面)に臨むしかなさそうだ。