【フランス・パリ29日発】“エアK”の影響力は意外にも――。テニスの全仏オープン男子シングルス2回戦、世界ランキング7位の錦織圭(29=日清食品)が同82位ジョーウィルフリード・ツォンガ(34=フランス)を4―6、6―4、6―4、6―4の逆転で撃破し、5年連続で3回戦進出を果たした。その一方、日本テニス協会では発展のカギを握る「スーパースター錦織」をテーマに、ある熱い議論が交わされていた。どういうことか?

 2015年の全仏オープン準々決勝で敗れた相手に会心のリベンジ。錦織が「タフな試合だった。決して簡単ではないと分かっていた」と語ったように、1回戦に続いて地元選手と対戦する“完全アウェー”で、しっかりと結果を出した。

 第1セット第10ゲーム、観客の物音に嫌がるそぶりを見せて打ったセカンドサーブはダブルフォールト。珍しく感情を表に出し、第1セットを落としてしまう。気持ちを切り替えて第2、3セットを奪うと、第4セットは開始から3ゲーム連続で落としながらも一気に5ゲーム連取の猛反撃。逆転勝利で3回戦進出を決めた。31日に予定されている3回戦では世界32位ラスロ・ジェレ(23=セルビア)と対戦する。

 パワーで勝る相手に頭脳とテクニックで打ち勝った錦織は現在、女子世界ランキング1位の大坂なおみ(21=日清食品)とともに日本テニス界の期待を一身に集める。そうした中で、日本テニス協会は「錦織効果」にスポットを当て、その現状と未来を多方面から分析・検証している。

 錦織が26日の1回戦に勝利した2日後、都内で開かれた理事会で戦略担当委員から「日本テニスの中長期戦略プラン」と題された約30ページの資料が全理事に配布された。錦織を「真のスーパースター」と位置づけた上で、野球やサッカーなどの人気競技と比較し、テニス界の将来像などが報告された。

 そこでは「14年全米オープン決勝進出以来、スーパースター錦織が誕生した一定の効果はある」とした。一方で「どこまで浸透しているか?」の検証ではテレビ視聴率、競技人口の増減、小学生の習い事の人気などを数値化して分析。その結論は「錦織ブーム、大坂ブームがテニス全体のブームに変換されていない」「残念ながら錦織効果をフル活用できていない」というものだった。

 錦織自身に問題は全くないものの、日本で“大きな影響力がない”との判定が出たことは本人にとってもショックだろう。理事会では、抜本的な改革案が必要とし「次のスター育成」「テニス環境の大幅な改善」などさまざまな議論が飛び交い、中には「錦織の模範的なインタビュー対応を全選手に見習わせろ」と訴える理事もいたという。

 全仏オープンでの熱闘の裏で、錦織がひそかにテニス界の未来を見据えた大激論の“主役”となっていた格好。日本に真のテニスブームを巻き起こすためにも、まずは悲願の4大大会制覇が求められそうだ。