【イタリア・ローマ17日発】テニスのイタリア国際で女子世界ランキング1位の大坂なおみ(21=日清食品)が、同4位のキキ・ベルテンス(27=オランダ)とのシングルス準々決勝を右手負傷のために棄権した。前日(16日)に異例のダブルヘッダーを行っていただけに状態が不安視されるが、DAZNテニス中継解説者の佐藤武文氏(47)は26日開幕の全仏オープンへ向け、むしろ「賢明な棄権」と陣営の判断を全面支持した。

 限りなくポジティブなリタイアだ。一日で2回戦のドミニカ・チブルコバ(30=スロバキア)、3回戦のミハエラ・ブザルネスク(31=ルーマニア)を立て続けに撃破してベスト8進出。しかも2回戦勝利後に、世界2位シモナ・ハレプ(27=ルーマニア)が敗れたため、大坂は4大大会3連勝が懸かる全仏オープンの第1シードを確定させた。

 最高の流れから負傷棄権――。一見すると暗雲が垂れ込めた感はあるものの、佐藤氏は今回の決断を「英断」と言い切った。「長いシーズンを見据えた上で、ここは無理をするところではありません。確かにイタリア国際もプレミア大会ですが、この大会で優勝しても次の全仏オープンに響いたら意味がない。そう考えるとピークを反対にするのは自然でしょう」

 スポーツ科学が進歩する昨今はアスリートの口から「ピーキング」という言葉がよく出る。「自分のピークをどこに持っていくか」という考え方で、テニスには重要だという。佐藤氏は「年中試合をやっていますからね。ピークを持っていくべき大会は何個もありますが、特に今の大坂選手は2連勝中の4大大会を優先するのは当然。大きなところを勝てばスポンサーのボーナスもはね上がりますから」。

 4大大会を優勝すれば日本テニス協会からは報奨金800万円。加えて契約する各スポンサーからもボーナスが支給されることを考えれば、どこに照準を合わせるべきかは一目瞭然だ。

 また「全仏を第1シードでプレーしたい」と切望していた大坂の心情を考えると「ハレプが負けて第1シードが確定した時点で気持ちが楽になった」(佐藤氏)との背景もあるだろう。

 また、大坂は昨年の全米オープン制覇時にトレーナーを務めていた茂木奈津子氏と4月に再契約。その直後、今季初のクレー(赤土)大会となるポルシェ・グランプリ準決勝を左腹筋痛のため棄権した。有能なトレーナーを含む“チーム大坂”が一丸となって全仏制覇を目指し、冷静な判断を下しているのは間違いない。

 この棄権が吉と出るか――。答えは全仏オープンで分かるはずだ。