蜜月の2人に何があったのか。女子テニスの世界ランキング1位・大坂なおみ(21=日清食品)が12日にツイッターでドイツ人コーチのサーシャ・バイン氏(34)との契約を解消したと表明したことは、世界のテニス界に大きな衝撃を与え、さまざまな臆測を呼んでいる。2017年末にコンビを組み、昨年の全米オープン、今年の全豪オープンと4大大会2連勝。二人三脚で世界の頂点に立ったが、実はその裏で関係に“亀裂”が入っていた可能性が浮上。コンビ解消の深層に迫った。 

 試合中のオンコート・コーチングでバイン氏が「君は素晴らしい。君ならできるよ」と甘い言葉をかけ、うっとりと笑顔で聞き入る大坂――。そんな仲むつまじい様子はテニスファンなら誰もが目にした光景だ。しかし、これはあくまでも表向き。全豪オープンの女子シングルス決勝直前の練習では、バイン氏から声をかけられた大坂が目も合わせず無反応だったシーンが目撃されるなど、最近になって2人の関係性にヒビが入っていたと証言する声は多い。

 今回、大坂はツイッターで「これからはサーシャとは一緒に仕事をしない。彼には感謝しているし、今後の成功を祈っている」と記し、バイン氏は「ありがとう、なおみ。何て素晴らしい旅路だったんだ」とツイート。これを受けた大坂サイドは「次のステージとして、このナンバーワンのレベルで戦術、技術をきっちりコーチできる人」を探す意向を示している。

 これだけを見ると円満解決だが…。テニスコーチでDAZNテニス中継で解説を務める佐藤武文氏(47)は「テニス界のコーチ契約はシーズンオフになる11月の区切りが一般的。このタイミングで解除するのはちょっと不可解ですね。円満ではない可能性が高い」と見解を述べた。お互いに納得していれば、少なくとも理由は併記するだろう。大坂の文面も一方的なニュアンスが強く、やはり確執があったと考えるのが普通だ。

 では、いったいどんなトラブルがあったのか。本紙の取材では、原因の一つは金銭がからんだ問題とみられる。ある関係者は「だいたいコーチと選手はお金でもつれる。スポンサーなどがからんで親子関係まで破綻するケースも珍しくない」と指摘する。バイン氏が大坂のコーチになったのは2017年末。昨年の全豪オープン前の世界ランキングで72位だった大坂は、バイン氏の精神的支えもあって4大大会を連勝し、アジア人として初めて世界1位の座に就いた。これは1975年11月、女子のランク算出にコンピューターが導入されて以降では最速の出世スピード。あまりの急成長で報酬に対する考えにズレが生じ「コーチ料が高くなるのは当然。その折り合いがつかなくなったのでは」と言うテニス関係者もいる。

 さらに言えば、バイン氏は今が“売り時”なのだ。世界72位から1位にまで押し上げた手腕は世界から高く評価され、昨季は女子ツアーを統括するWTAの年間最優秀コーチ賞にも輝いた。過去にはセリーナ・ウィリアムズ(37=米国)、ビクトリア・アザレンカ(29=ベラルーシ)、キャロライン・ウォズニアッキ(28=デンマーク)ら元世界1位のラリー練習相手を務めており、初めてコーチとしても世界の頂点に立った。「このタイミングなら自分を高く売れる」と判断したバイン氏が金銭面でも強気になり、そこから溝が生まれた可能性もある。

 また、全豪オープン期間中に男子のダビド・ゴフィン(28=ベルギー)の元コーチのヴァン・クリーンプット氏が、女子の元世界1位シモナ・ハレプ(27=ルーマニア)と正式に契約した。「今、女子選手のコーチ周辺の再編が進んでいる。その動きも関係あるかもしれません」と佐藤氏は推測する。

 大坂は17日からのドバイ選手権に出場予定だが、今週のカタール・オープンは背中の痛みを理由に欠場。「この時(全豪オープン期間中)すでに意見の相違があって、話し合いが持たれていた可能性もある」(佐藤氏)。皮肉にも世界1位を祝福する“なおみフィーバー”と反比例するように、2人の溝は深くなったのかもしれない。