“なおみフィーバー”が止まらない。テニスの全米オープンで、日本人初の4大大会(グランドスラム)シングルス制覇を達成した大坂なおみ(20=日清食品)の快挙に、日本中が沸いている。その経済効果は「200億円」にも達することは本紙昨報の通りだが、所属企業や同大会の独占中継局、来週の凱旋試合などさまざまな分野に波及。その一方で大坂には意外な“課題”も浮上している。テニス界に出現したニューヒロインの「期待」と「不安」を探った。

 全米オープンVの大坂は、10日付世界ランキングで前回の19位から自己最高の7位に上がり、初のトップ10入りを果たした。これに合わせるように株価が急上昇したのが全米オープンを独占中継した「WOWOW」だ。

 大坂が日本人初の4大大会決勝進出を決めた日本時間7日は同社の株価が140円もアップした。発行済み株式は2884万4400株なので、一日で時価総額が40億円余り上昇。この日の最高値は前日比175円アップだったので、“瞬間最大”で見ると50億円超押し上げたことになる。

 所属契約する日清食品の持ち株会社、日清食品ホールディングスの株価も、日本時間9日の優勝から一夜明けた10日は30円アップ。同社の発行済み株式は1億570万株なので、時価総額は32億円近く上昇した。

 WOWOWの加入者も大坂と錦織圭(28=日清食品)が揃って準決勝進出を決めた先週末に大幅増。その勢いは4年前の全米オープンで錦織が決勝進出を果たした時や、2015年5月のプロボクシングの“世紀の一戦”、フロイド・メイウェザー(米国)対マニー・パッキャオ(フィリピン)をほうふつとさせるものだったという。

 多くのWTAツアーを放送するスポーツ動画配信サービス「DAZN(ダゾーン)」も、大坂が初優勝した「BNPパリバ・オープン」が行われた今年3月から8月にかけての加入者数が昨年の同時期に比べてなんと3倍増を記録した。大坂が出場予定の「中国オープン」(29日~)、さらには来月の「WTAファイナルズ」もDAZNで独占放送とあって、さらに加入者数を伸ばすことになりそうだ。

 また、大坂の次戦は日本で行われる東レ・パンパシフィック・オープン(17日開幕)。今年は有明コロシアムが東京五輪に向けた改修工事で使用不可能となったため、会場のキャパが約3000人の東京・アリーナ立川立飛での開催となった。そうした中で、快挙直後の「凱旋試合」となったことで大会事務局には問い合わせが殺到。すでにほとんどのチケットが売り切れて“プラチナチケット化”しているという。

 ニューヒロインの期待値が上がるばかりの一方、GAORAテニス中継解説者の佐藤武文氏(47)は、今後へ向けてこんな指摘も。「彼女はこの先、何回もグランドスラムを取るかなと思う。ただ、女子の世界では、それをできるだけ早い段階で取っていかないと長いトンネルになることってよくあるんです。グランドスラムを初めて勝ってそれで終わっちゃうという選手もいる」

 例に挙げたのがエレナ・オスタペンコ(21=ラトビア)だ。昨年の全仏オープンで彗星のように現れてノーシードから勝ち上がり、4大大会を初制覇した。

 だがその後の4大大会では振るわず、今シーズンは連覇を狙った全仏でまさかの1回戦敗退。今回の全米オープンも3回戦で姿を消した(最高成績はウィンブルドン選手権ベスト4)。

「彼女(オスタペンコ)はまさにその例にならっていて、今はそのギャップに苦しんでいる感じ。だからできるだけ2回目のグランドスラムを早く取るってことが、ものすごい“課題”なんじゃないですかね」

 オスタペンコは20歳で全仏Vを果たしたが、大坂も全米を同じ20歳で制した。二の舞いを避けるためにも、来季の4大大会で結果を残したいところ。それが“絶対女王”への課題と言えそうだ。

 大きな「期待」と「不安」が交錯する中、テニス界のシンデレラはさらなる飛躍を遂げられるか。