【取材の裏側 現場ノート】北京冬季の五輪開幕まで5か月を切り、頭も体もシフトしなければならないが、ついつい東京五輪の記憶がよみがえってしまう。最も印象に残っている選手の1人、卓球女子の伊藤美誠(20=スターツ)は混合ダブルス金を含む出場3種目でメダルを獲得した。

 水谷隼(木下グループ)と臨んだ混合ダブルスは決勝で中国ペアを撃破。今大会初めて採用された種目とはいえ、金メダルは日本卓球界初の快挙となった。しかし、その後はシングルス準決勝で同い年の孫穎莎(中国)に屈して銅メダル、団体決勝も中国に敗れて銀メダルという結果に「やっぱり中国人選手に勝ってメダルを取りたい。私自身、金メダル以外は基本一緒だと思ってます」と本音をのぞかせた。

 一方、中国メディアはかねて伊藤を警戒すべき相手として取り上げ、過去には「大魔王」と名付けたこともある。こうした〝場外戦〟を過剰に意識すればプレーに影響を及ぼしてもおかしくないが、本人はどう受け止めているのか。五輪前の取材機会で問われると、伊藤は次のように明かしていた。

「そこはすごくうれしいですね。私は何を言われても大丈夫。やっぱりライバルというか危ない選手として見てくれているんだなと。そこを乗り越えるというか、本当に危なくしてあげたいというか、中国選手にハラハラドキドキさせたいなと思います」

 ライバル国が注目し、対策に力を入れるほど苦戦を強いられるのは必至。それでも、相手の〝フルパワー〟を肌で感じることは今後の成長にもつながる。伊藤は自らの「要注意人物扱い」に大歓迎というわけだ。

 そんな中国では混合ダブルスのV逸が波紋を広げた。絶対王者として勝って当たり前、負けることなど許されない――。実際に試合会場は重苦しい雰囲気が漂い、同国の報道陣が敗れたペアに厳しい質問を浴びせる一幕もあった。この一戦で伊藤の警戒レベルはさらに高まっただろう。

 伊藤自身、金1、銀1、銅1は不本意かもしれない。だが、大舞台で「卓球王国」から金星を挙げたのはまぎれもない事実。喜びも悔しさも味わった今大会の経験を生かし、3年後のパリ五輪はぜひ全種目制覇する姿が見たい。

(五輪担当・小松 勝)