【Restart パラヒーローズ その壁を乗り越えろ(36)】飛躍の要因は――。パラ卓球女子シングルス(クラス11)の古川佳奈美(23=博多卓球クラブ)がユニークな練習方法で進化を遂げている。大舞台を目指し始めてから約4年。メダル獲得が期待されるヒロイン候補の成長劇に迫った。

「別に勝ちたいって気持ちはなかった」。古川は小学4年時に、軽度知的障がいと自閉症スペクトラムの合併症と診断された。中学、高校は卓球部に所属していたが、遊びの延長線上にすぎなかった。

 しかし、運命のひと言が古川の人生を大きく変えた。所属先のコーチで、今も指導を仰ぐ井保啓太氏(36)に「東京大会を目指すなら本気で教える」と問われたのだ。古川も「東京大会を目指す」と覚悟を決め、夢舞台への挑戦が幕を開けた。

 当時の古川の卓球スタイルは自己流。そこで「井保コーチに一から教えてもらった」と基礎固めに専念。さらに、井保氏は古川に分かりやすく指導するために、ドラえもんのキャラクターに例えてアドバイスをくれたという。「例えば卓球をしていて、暴れたりしていたらジャイアンになるよって言われたり、動きが遅いとのび太になるよとか言われた」。古川がドラえもんのファンだったこともあり「すごく分かりやすくて、自分の中でどんどん理解できるようになった」と練習にも熱が入った。

 2017年には「しゃがみ込みサーブ」の習得を決意。16年リオデジャネイロ五輪女子シングルス金メダルの丁寧(31=中国)らトップ選手が使う技だが、動きが大きく、知的障がい者の習得は難しいとされる。それでも、江崎グリコのCMで話題となった「ポッキーダンス」の腕の動きを参考に、コツコツと練習を重ね、自らのモノにしてみせた。

 その結果、18年世界選手権では銅メダル。19年ジャパンオープンでも銅メダルに輝き、世界ランキングも急上昇。「すごい自分の中で自信になった」と手応えをつかんだ。20年7月には東京大会の代表にも内定し「ひとまずホッとした」と笑みを浮かべた。

 ただ、満足はしておらず「出るからには金メダルを獲得したい。プレーを通じて同じ障がいを持っている人たちに少しでも感動してもらえたら」と気合は十分。丁寧ばりの「しゃがみ込みサーブ」で“テッペン”をつかみ取る。

 ☆ふるかわ・かなみ 1997年7月27日生まれ。福岡県出身。体を動かすことが好きな少女だったが、小学4年時に軽度知的障がいと自閉症スペクトラムの合併症と診断された。中学から卓球を始めると、3年時にパラ卓球の世界へ飛び込んだ。2018年世界選手権で銅メダルを獲得し、一躍脚光を浴びると、19年ジャパンオープンでも銅メダルに輝いた。心の癒やしはドラえもんの映画で、お気に入りは「ドラえもん のび太の月面探査記」。1メートル61センチ。