若きエースが目指す姿とは――。水泳の世界選手権(ハンガリー・ブダペスト)、男子高飛び込みで日本勢史上最年少となる15歳で銀メダルを獲得した玉井陸斗(JSS宝塚)が5日、成田空港に帰国した。2024年パリ五輪でのメダル奪取へ最高のスタートを切る一方で、高校生活を通じて実現させたい〝究極の目標〟があるという。兵庫・須磨学園高水泳部監督の谷川誠氏が、玉井と周囲が描く未来像を明かした。


 最年少記録となる銀メダルを引っさげて〝凱旋帰国〟した玉井は「メダルを取れると思っていなかった。終わってホッとしたし、すごくうれしい」と笑みを浮かべた。

 日本の飛び込み勢は1920年アントワープ五輪から出場しているが、100年以上の歴史でいまだメダル獲得数はゼロ。悲願達成の期待が高まる中、谷川氏は「五輪でメダルを目指してほしい思いもあるが、飛び込みを通して交友関係が増えたりとか、学校で友人関係や上下関係などを学んで、例えば飛び込みで世界2位という肩書がなくても『玉井っていいやつやな、すごくいい人間だな』と思ってもらえるような子になってほしい」と人間的な成長を望んでいる。

 この指導方針は、玉井の両親や所属のJSS宝塚の意向とも一致する。「高校(須磨学園高)へ入学する際にJSS宝塚さんや両親と面談をして出てきたことだが『人として成長してほしい』と。一番は飛び込み選手として大成してほしいのではなくて、一人の高校生としてちゃんとした生活を送らせてやりたいし、飛び込みを取ったら何にも残らないような人間にはなってほしくないとの思いで進学を決めたみたいです」

 一部のトップアスリートは勉強や交友関係を犠牲にしてでも、全てを競技にささげている。しかし、玉井は違う。学生生活を充実させるとの確固たる決意を持っているのだ。谷川氏も「勉強で特別扱いをするつもりはなくて、ちゃんと学校に来て、テストも受けてねという形で入ってきた。定期テストも問題なくクリアしている」と評価する。

 6月は世界選手権前の合宿などで学校に行く機会が減ってしまったものの、4、5月はできる限り登校し、授業に参加。さらに「社交性が抜群であいさつもできるし、人当たりもいいし、水泳部に限らず友達がたくさんいる」と周囲にもなじんでおり、世界選手権後には多くの祝福メッセージを受け取ったという。

 まだ高校1年生。パリ五輪までの2年間で、どんな進化を見せてくれるのか楽しみだ。