快挙の裏にあった〝癒やしアイテム〟とは――。東京パラリンピック競泳男子100メートル自由形(S4)決勝(26日、東京アクアティクスセンター)、5大会連続出場の鈴木孝幸(34=ゴールドウイン)が1分21秒58の大会新記録をマーク。日本勢の金メダル第1号に輝き、渾身のガッツポーズを見せた。

 先天性四肢欠損で両大腿と右腕のヒジ下から先がなく、左手は指が健常者より2本少ない。それでも、15歳で本格的に水泳を始めると、パラ競泳界の中心選手として3大会連続でメダルを獲得。前回のリオ大会では初めてメダルなしに終わり、引退も頭をよぎったが、自国開催の大一番に向けて「チューブなどで負荷をかけて体幹を鍛えた」。基礎から見つめ直し、厳しいトレーニングを積んできた。

 しかし、新型コロナウイルス禍で大会が1年延期となり「ハードなトレーニングがもう1年続くのか」と気持ちが折れかけたこともあったという。そんな時は、ギターと三線を組み合わせた弦楽器「一五一会」で気分転換を図った。中学時代は吹奏楽部に所属していたことから「楽器を演奏するのが好きで、息抜きとして楽しんでいる」。

 以前はホルンを吹くことが多かったが、コロナ禍以降は「一五一会」に熱中。「SNSで曲のコードを調べて、自分なりに練習した。今は(コードを)見ながら弾けば20曲以上は弾ける」。自身が演奏する動画をSNS上に投稿するほどの腕前にまで上達した。

 多くの選手がモチベーションの維持に苦しんだ1年。鈴木も例外ではなかったが、オンとオフを巧みに切り替え、金メダルをつかみ取った。「自信を持っていこうと思って泳いだ。とてもうれしかった」。次なる目標は複数種目での金メダル。ここで歩みを止めるつもりはない。