五輪2大会で計5個の金メダルを獲得した競泳のレジェンド、イアン・ソープ氏(31)が13日、オーストラリアの民放テレビ局「チャンネル・テン」の番組で、ゲイであることをカミングアウトした。かねて同性愛者として噂されていたソープ氏だが、これまでは否定し続けていた。今回告白するまでには、壮絶な心の葛藤があったようだ。

 ソープ氏は、英国のトーク番組の司会を務めるジャーナリストで作家のマイケル・パーキンソン氏(79)のインタビューに応じ、性に関する質問に答え始めた。パーキンソン氏が、自分の性に対して疑問を持ち始めた時期を尋ねると、ソープ氏は「16歳の時だった」と振り返った。


 続けて「あなたは同性愛者ではないと言い続けてきた。常に自分の性的経験は女性とのものだったと言っていた。すべて本当か?」との質問にはこう回答した。


「それは本当だが、これについて長い間考えてきた。僕は異性愛者ではない。これはごく最近になって話せるようになったことで、この2週間は周りの近い人に、このことを気持ちよく打ち明けられている。しばらくカムアウトしたいと思っていたが、できなかった。できると感じなかった。問題だったのは、僕がとても若い時に性について問われたことだった」


 さらにソープ氏は「うそがとてつもなく大きく感じた。今は気持ちよく同性愛者だと言える。ほかの人には、自分が感じたように感じてほしくない。成長し、気持ちよく同性愛者だと言えるようになる」と述べた。


 告白が遅れたのは“立場”があったからだという。


「オーストラリア(の国民)が、母国のチャンピオンが同性愛者であることを望んでいるかどうか分からなかった。オーストラリアだけでなく、僕は世界に対し、同性愛者であることを伝えている。僕のカムアウトが今、ほかの人の助けになればと願っている。長年隠していたとしても、カムアウトすることが意外に簡単だったと感じる」


 ソープ氏はインタビューの中で、19歳になる前からうつ病にかかり、18歳のころから抗うつ剤を使っていたことを認めた。


「自分は少し違うことに気づいていたが、うれしく感じない時があった。わけの分からない気だるさがあった、様々な偉業を達成したのに、自分が大喜びしていない理由も分からなかった」


 抗うつ剤が効かなくなるとアルコールに依存するようになり、朝起きられなかったり、二日酔いでプールに行くことがあったことも認めた。今年2月、専門の治療施設に入院した。


 2006年に引退し、11年に現役復帰。今年4月には、重度の感染症で左腕の機能を失う恐れがあると報じられた。それでも今後は「泳げるようになりたい。水泳をひどく嫌い、関わりたくないと思った時期も越えた。内省し、もう一度泳ぎたいと思うようになった。再び戻れるように努力をするつもりだ」。子供の水泳指導などの可能性を示唆した。


 最後に「自分の人生を見つめた。過ちを犯したが、人生の良い選択をした。誠実と威厳という自分にとって最も大切な基本的価値観に戻った。これは他の何より僕が尊重することであり、他の人にもこのことを共有できたと思う」と締めくくったソープ氏。


 うつ病とアルコール依存については本紙でもたびたび報じてきた。今年1月には、日本の民放局の女性アシスタントプロデューサーに、「もうすぐ自分は死ぬかもしれない。その前に自分の言葉を日本の人たちのために残しておきたい。インタビューをしてほしい」と電話をかけてきたことを報じた。母国ではヒーローという立場上、カミングアウトできず、精神的に追い詰められたのが一因ではないかとささやかれていた。


 テレビカメラの前で同性愛者であることを告白したソープ氏には現在、オーストラリアの国内外から多くの支援が寄せられている。