まさかの「角界残留」だ。大相撲春場所(3月11日初日、大阪府立体育会館)の新番付が発表された26日、元横綱日馬富士(33)に暴行を受けた十両貴ノ岩(28=貴乃花)が京都・宇治市の部屋宿舎で朝稽古を行った。部屋側の意向により、報道陣の取材が制限されるなどピリピリとしたムードを漂わせた。その一方で、加害者となった日馬富士は現役時に所属した伊勢ヶ浜部屋のコーチに正式に就任していたことが本紙の取材で判明。新たな波紋が広がっている。

 春場所の新番付が発表された26日、貴ノ岩が部屋宿舎で朝稽古を行った。午前5時台に稽古場に現れると、白まわし姿で四股などの基礎運動やぶつかり稽古で当たったり、胸を出したりして汗を流した。貴ノ岩は日馬富士に暴行を受けて頭部を負傷し、2場所連続で休場中。昨年11月に騒動が発覚して以降、公の場に姿を見せるのは初めて。この日が28歳の誕生日だった。

 部屋側の意向で宿舎敷地内での報道陣による写真撮影が禁止されるなど、厳戒態勢が敷かれた。貴ノ岩は稽古を終えると稽古場の裏側を通って引き揚げ、取材対応はなかった。師匠の貴乃花親方(45=元横綱)は「何も答えられない。申し訳ない」とだけ話した。後援会関係者によると、貴ノ岩は20日ごろに東京から宇治市の宿舎に入ってきたという。今場所の貴ノ岩の番付は西十両12枚目。傷害事件の被害者であることを考慮され、特例措置で幕下へ陥落せずに十両に残留した。

 貴乃花親方は部屋の公式サイトの中で春場所での復帰を目標としながらも「医師の指導の下、本人の心身両面での快復状態を見ながら判断していきたい」(原文ママ)と出場の可否を慎重に見極める意向を示している。今後の調整を含めて動向に注目が集まる。

 日本中を揺るがした傷害事件の被害者が復帰に向けて動き出した一方で、事件の加害者となった日馬富士にも新たな動きがあった。現役時に所属した伊勢ヶ浜部屋のコーチに正式就任していたことが明らかになったのだ。すでに部屋の力士たちへの指導を始めており、東京・江東区の部屋の稽古場には「コーチ」として日馬富士の木札が掛けられているという。

 現役を引退した関取が指導者に転身するには「親方」になるのが一般的だ。日本相撲協会に所属する親方になるためには諸条件をクリアする必要がある。日馬富士の場合は「日本国籍を有する者」の条件を満たせずに協会を去ることになった。親方になれなかった場合でも元関取が「師範代」や「コーチ」の肩書で部屋に籍を残すことは決して珍しいことではないが、横綱経験者が正式に相撲部屋のコーチに就任するのは近年では極めて異例のことだ。

 その日馬富士は春場所の番付発表前日25日に大阪入り。同日に行われた部屋の行事にも参加しており、今後は部屋の力士に指導を行う可能性もある。元横綱朝青龍(37)は現役引退後に母国のモンゴルで実業家に転身した。相撲界とは一線を画しているが、日馬富士は元所属部屋のコーチに就任した以上、今後も角界と関わり続けることになる。となれば、何らかのタイミングで日馬富士と貴ノ岩の“ニアミス”が起こることも、全くあり得ない話ではない。

 加害者である日馬富士の「角界残留」に対して、被害者の貴ノ岩は何を思うのか。さらに師匠の貴乃花親方は…。今後も気が抜けない日々が続くことになりそうだ。