日本相撲協会の危機管理委員会は25日、都内で貴乃花親方(45=元横綱)から事情聴取を行った。巡業部長の立場にありながら秋巡業中に起きた元横綱日馬富士(33)の十両貴ノ岩(27)への暴行を協会に報告しなかったことや、その後に協会に対して非協力的な姿勢を示した点などについて弁明の機会を与えた。この日の聞き取りを受けて協会は28日の臨時理事会で貴乃花親方に対して厳しい処分を下す見込み。さらに角界内では次期理事選を見据えて閑職への配置転換を求める声も上がっている。

 この日の事情聴取は都内のホテルで午後2時から約2時間にわたって行われた。日本相撲協会から危機管理委員会の鏡山部長(59=元関脇多賀竜)、高野利雄委員長(元名古屋高検検事長)が出席。貴乃花親方は弁護士を伴って聞き取りに臨んだ。相撲協会の春日野広報部長(55=元関脇栃乃和歌)によると、この日になってから貴乃花親方側が聴取の時間や場所を指定してきたという。

 貴乃花親方は巡業部長の立場にもかかわらず秋巡業中に起きた元日馬富士の貴ノ岩への暴行を協会に報告せず、独断で警察に被害届を提出。その後も相撲協会に対して非協力的な態度を取り続けた。この日の聞き取り調査の中で貴乃花親方は「巡業部長として誠実に対応した」といった趣旨の弁明をしていたという。

 ただ、貴乃花親方の「言い分」がどのようなものであろうとも、相撲協会に対して敵対的な態度を貫いた事実は動かない。

 28日の臨時理事会では、相撲協会の事業への従事を停止する「業務停止」や理事からの「降格」などの懲戒処分は避けられない状況だ。その一方で、協会側が厳罰を下したとしても「貴乃花親方にとっては、大きなダメージにならない」(角界関係者)と見る向きもある。

 相撲協会の理事の任期は実質的に来年3月の春場所まで。年明け1月の初場所後の2月は巡業がないため、巡業部長職の「業務停止」の処分の“効力”には疑問符がつく。また、初場所後には次期理事候補の選挙が実施され、春場所後に新理事に就任する。理事からの降格処分を下したとしても、その3か月後には再び理事として返り咲く可能性が高い。

 そういった事情があるだけに、すでに角界内では理事再選の動きを見越して「もう理事として協会の大事な仕事は任せられない。教習所長でもやらせておくしかない」(親方の一人)との声も上がっている。

 相撲協会の数ある役職の中で、東京・両国国技館の敷地内にある相撲教習所の所長は権限も少なく「要職」とは言えないポジション。理事1期目の親方が任されることが多く、貴乃花親方も理事に初当選した2010年には同職からスタートしている。その後に審判部長、大阪場所担当部長、総合企画部長、巡業部長などを歴任した今の貴乃花親方が同職に就くことは事実上の“左遷”に等しい。実際、各理事への職務の割り振りは理事長の専権事項。現時点では再選が濃厚とみられる八角理事長(54=元横綱北勝海)の胸一つということだ。

 28日の臨時理事会での処分をもって、今回の一連の暴行問題は一応の区切りを迎える見通し。しかし、八角理事長ら現執行部と貴乃花親方との“権力闘争”は、年が明けても継続していきそうな雲行きだ。