大相撲の横綱日馬富士(33=伊勢ヶ浜)が10月の秋巡業中に鳥取県内で幕内貴ノ岩(27=貴乃花)に暴行を加えた問題で、新たな波紋が広がっている。日本相撲協会の審判部は九州場所12日目(福岡国際センター)の23日、横綱白鵬(32=宮城野)を呼び出して厳重注意を与えた。白鵬は前日11日目の取組で審判に対する不服を態度であからさまに示していた。角界内では、土俵内外で騒動を連発するモンゴル出身力士に対する風当たりが強まるばかりだ。

 この日、審判部長代理の伊勢ヶ浜親方(57=元横綱旭富士)と副部長の2人が、審判部に白鵬を呼び出して口頭で厳重注意を与えた。白鵬は前日11日目(22日)に敗れた際に、土俵下で右手を挙げて“物言い”をつけて立ち合い不成立をアピール。土俵に戻った後も1分間ほど引き下がらず審判団に対して不服の態度を示し、最後は礼もせずに花道を引き揚げた。

 伊勢ヶ浜親方は「負けたら土俵に上がって礼をするのがルールだから、守ってほしい。横綱は全力士の一番の見本だから。自分の価値を下げないように、きちんと行動するように注意した」と注意の内容を明かした。さらに物言いをつけられるのは審判団と控えに入る力士だけで、取組の力士はできない規則も伝えたという。この日の土俵では関脇御嶽海(24=出羽海)に何もさせず一気に寄り切って力の差を見せつけただけに、実力と振る舞いのギャップは大きい。いずれにせよ、白鵬が取った行動は前代未聞の“愚行”だった。

 これまでにも白鵬はダメ押しでたびたび注意を受けており、2年前には審判批判を展開して大騒動を起こした“前科”もある。今回の一件に八角理事長(54=元横綱北勝海)は「39回優勝しているけど、まだ修行の身」と大横綱の未熟さを指摘。取組後の白鵬は「今後、気をつけます」と審判部に謝罪したことを明かした上で「自分も花道を下がった後に納得していたし、申し訳ない」と反省の言葉を口にした。

 折しも、相撲界は日馬富士による貴ノ岩暴行問題に揺れている真っ最中だ。日馬富士が騒動を起こしたのは、白鵬も参加していたモンゴル人力士が集まる酒席での出来事だった。そして、今回の白鵬による土俵上の問題行動…。もちろん、モンゴル出身力士の名誉のために言えば、大半の力士は何の問題も起こしていない。ただ、同じ九州場所中に土俵内外で騒動が重なったことは、あまりにもタイミングが悪すぎた。

 しかもいずれの問題行動でも、番付の頂点に立ち、力士の模範となるべき横綱としての資質が厳しく問われている。一連の騒動で「モンゴル出身力士=トラブル」の印象が強まってしまったことは確かだ。その結果、角界内での風当たりも強まっている。

 ベテラン親方の一人は「朝青龍(2010年に泥酔暴行騒動で引退)もそうだった。だから、モンゴル(出身力士)はダメなんだよ。いくら厳しく注意しても、彼らは同じことを繰り返す。それは何も変わっていない」と吐き捨てるように言った。

 これまでモンゴルという国を誰よりも身近に感じさせてくれる存在だっただけに、両横綱が起こした行動は皮肉と言うほかない。ここから負のイメージを払拭することは簡単ではなさそうだ。